2007年11月29日

【指輪物語豆知識(64)】<それから(12)>大いなる豊饒の年

翌第3紀3020年(ホビット庄暦1420年)は「大いなる豊饒の年」と呼ばれるようになるほど、素晴らしい年になりました。
春がくると、それはサムのもっとも野放図な望みを上回るものになりました。彼の植えた木々はぐんぐんと伸び始め、まるで時が先を急ぎ、1年に20年分の仕事をさせたがっているかのようでした。
誕生祝いの原には美しい若木が1本すっくと伸びてきました。その木は銀色の木肌と長い葉を持ち、4月になると金色の花が一度にぱっと花開きました。これはほかでもないマルローン樹でした(注1)。そして木は近隣の賛嘆の的になり、後年この木が優雅さと美しさを増すにつれ、人々はこれを見ようと遠路はるばるやってくるようになります。これは大海より東、霧ふり山脈より西にある唯一のマルローン樹だったからです。

そしてこの年はいまだかつてない、またこれからもないであろうほどの大豊作の年になりました。作物だけでなく、この年に産まれた、また儲けられた子供たちは数多かったのですが、その誰もが見るからに美しく丈夫であり、不思議なことにはそれまでホビットの間ではめったに見られなかった美しい金髪を、この子らのほとんどが持って産まれたのでした。

袋小路屋敷はおおがかりな修理修繕が必要でしたがそれもようやく終わり、また袋枝路の整備も終わって、フロドは袋小路屋敷に、ギャムジー親子は袋枝路に新築した家に移りました。
メリーとピピンはバック郷の掘窪にかまえたフロドの「新居」にいっしょに住み、たびたびホビット庄まで訪ねてきましたが、そのときの騎乗の姿の立派さはたとえようがなく、きらめく鎧や盾、ローハンとゴンドールの騎士のいでたちに人々は感心し、メリーとピピンの名声はあがるばかりでした。みんなはふたりを「殿様のようだ」と言いました。
さて、かねがねフロドはサムに袋小路屋敷にいっしょに住まないかと勧めていたのですが、いつまでたってもサムが移ってくる様子がないのでサムに言いました。
「お前はいつわたしのところに引っ越してくるつもりかね? 来たくなければ来なくてもいいんだよ」
するとサムはもじもじして、ばつの悪そうな顔をしました。聞いてみると、サムはコトン家のロージーと結婚したいというのです。でもフロドの元にも行きたいしで、板ばさみになっていたのでした。フロドは笑って、そんなことは簡単じゃないかと言いました。ロージーと早く結婚して、それからふたりで袋小路屋敷に来ればいいじゃないか、と。袋小路屋敷はフロドひとりで住むにはあまりにも広すぎました。サムたちがいくら大家族になっても(注2)充分なだけの部屋があるのです。
こうしてサムワイズ・ギャムジーはこの年の春にローズ・コトン(愛称ロージー)と結婚をし、ふたりは袋小路屋敷に引っ越してきました。
サムが自分で運がいいと思った以上にフロドは自分こそ運がよかったと思いました。なぜならホビット庄中をさがしても、フロドほど行き届いた世話を受けているホビットはほかにはいないのですから。

しかしいいことばかりではなく、この年の春から、フロドはたびたび病床に伏せるようになりました。そんなフロドにとって、サム夫婦がいてくれたおかげで、どれだけ助かったかわかりませんでした。
フロドは病床につくと、アルウェンに贈られた白い宝石のペンダントをにぎりしめ、じっとこらえました。うわ言のようにこんなことをつぶやいているのを、たまたま訪ねてきたコトン爺さんが聞いています。「永遠に失くなったんだ」「そして今はすべてが暗く空虚だ」
サムが発作に居合わせたときは、フロドはこうサムに言いました。「わたしは傷ついている、そして二度と癒ることはないのだよ」
フロドが発作に襲われたのは、風見が丘でナズグルの首領に肩を刺されたと同じ日であり、また大蜘蛛シェロブに刺されたのと同じ日でした。

                             *

(注1)ロスロリアンだけにある美しい木です。その昔ヌメノールの西部に、マリノルネと呼ばれる黄金色の木がありました。その木の実をヌメノールの王タル=アルダリオンがエルフの王ギル=ガラドに贈り、ギル=ガラドが縁者であるガラドリエルにその一部を贈って、ガラドリエルがロスロリアンに植え、彼女の力によって成長したものがロスロリアンのマルローン樹です。エルフの携行食糧のレンパスはこのマルローンの葉に包まれています。
(注2)サムとロージーは13人もの子供に恵まれ、まさに大家族になるのです。
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2007年11月27日

【指輪物語豆知識(63)】<それから(11)>後かたづけ

では「それから」を再開いたします。


シャーキーことサルマンが儚くなった翌日、フロドたちは大堀町まで行って、留置穴に幽閉されていたホビットたちを救出しました。穴熊スミアルで彼の率いる「反徒」と共に捕らえられたフレデガー・ボルジャーは、かわいそうにもう「でぶちゃん」ではありませんでした。
勇敢にも傘でごろつきに殴りかかったロベリア・サックビル=バギンズはすっかり年寄って弱っていましたが、彼女が外に姿を現すと、いっせいに歓声と拍手が湧き起こり、ロベリアはすっかり心を動かされて、涙にくれました。いままで彼女は誰からも好かれず、こんな経験は初めてだったのです。
しかしロソが殺されたことを知ると彼女はすっかりうちのめされ、フロドに袋小路屋敷を返して、実家へと去りました。この翌春にロベリアは死んでしまいますが、その遺言を見てフロドは感動しました。ロベリアは残った財産すべてをフロドに寄贈し、今度のことで家を失ったホビット、戦さで戦死者を出した家にわけてくれるように言い残したのです。フロドがそうしたことは言うまでもありません。
庄長の小足家のウィル老はもっとも長く留置されていたひとりですが、体が弱ってしまい、快復するまでということでフロドに助役をしてくれるように依頼し、フロドもこれを引き受けましたが、助役としてフロドのやったことは庄察の規模と人数を本来のかたちにまで縮小したぐらいでした。

ホビット庄に残ったごろつきどもの始末はメリーとピピンにゆだねられましたが、もはやてんでんばらばらに逃げ隠れするごろつきどもは脅威ではなく、抵抗らしい抵抗もなく、その年の暮れまでに生き残ったごろつきどもも森の中で全員逮捕され、降伏した者は国境まで送られて放逐されました。

ごろつきどもに荒らされほうだいだったホビット庄を元通りに、いや前以上に素晴らしいものにするために、サムは大忙しでした。サムだけでなく何千人ものホビットたちが総出で働きましたので、がらくた(ごろつきどもが建てた建物など)は見る見るかたづいていきました。その過程で、驚くほどたくさんの物資や食糧やビールが隠し場所から見つかり、そのおかげでその年のユール(注1)には思いもかけぬ大宴会を催すことができました。

建物などは取り壊せばすむのですが、ごろつきどもがもっとも被害を与えたのは樹木に対してでした。シャーキーの命令で、あらゆる場所の木が目的もなくむやみやたらに切り倒されてしまい、これを元通りにするのは絶望的ではないかと思えるほどでした。
サムは木々のことに心を痛め、そしてガラドリエルにもらった贈り物(注2)のことをいきなり思い出したのです。彼は「旅人たち」(いまや彼ら4人はこう呼ばれていました)に相談しました。
「とにかく開けてごらんよ」と言うフロドにしたがって、ガラドリエルのくれた箱を開けてみますと、その中にはやわらかくて細かな灰色の粉末がいっぱいつまっていました。そしてその真ん中には銀色の殻をもった小さな木の実のような一つぶの種がありました。
「これをどうしたらいいでしょう?」と尋ねるサムにめいめい意見を出しましたが、フロドはこう言いました。
「お前が自分で持っている智慧や知識をある限り使ってごらんよ、サム。そしてそのあとでこの贈り物を使うのだ。お前の仕事を助けてもらい、それをよりよく向上させるためにね。それからこれはけちけち使いなさい。たくさんあるわけではないし、この粉末の一粒一粒に値打ちがあると思うから」

そこでサムは特に美しかった木や皆から愛されていた木が切り倒された場所に全部若木を植え、その根元の土にそれぞれ一粒ずつ、この貴重な粉末を置きました。サムはこの仕事のためにホビット庄中を歩きまわりました。そして最後にサムはホビット庄のちょうど中心と思われる境石のところで、残った灰色の粉末を祝福の言葉とともに空中に撒きました。
小さな銀色の木の実は、誕生日の木のあった誕生祝いの原に埋めました。そこからなにが出てくるのかは春の楽しみとして、サムは何度も見に行きたい気持ちを我慢しました。

                        *

(注1)ホビット庄暦では、大晦日と翌元日をユールと呼んで、お祝いをしました。
(注2)ロスロリアンで旅の仲間たちはガラドリエルからひとりずつ贈り物をもらいましたが、サムには小箱が贈られ、その中身は「ロスロリアンの庭の土」と説明されました。
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2007年11月25日

【指輪物語豆知識(62)】<中つ国の人々>グロールフィンデル

何度映画化されても出番をほかの人に奪われる気の毒なエルフを紹介します(笑)。バクシ版の映画ではその役をレゴラスに奪われ、ジャクソン版ではアルウェンに出番を奪われました。


*グロールフィンデル(Glorfindel)ノルドールエルフ 男
ノルドール族エルフ(上のエルフ)のひとりです。ノルドール族には珍しく金髪であり、グロールフィンデルという名前もシンダール語で「金髪」の意味です。その血統に金髪のエルフであるヴァンヤール族の血が混じっているのかもしれません。ガラドリエルもヴァンヤールの血を受けて、ノルドールでありながら金髪ですので、同じような血統なのでしょう。
指輪戦争から1000年ほど前の第3紀1975年にゴンドールとローハンの人間たちとエルフたちの連合軍が北連丘でアングマール軍と大決戦を行ったとき。グロールフィンデルは裂け谷のエルフ軍を指揮して参戦しました。敗走するアングマールの魔王を人間軍の総指揮官エアルヌアと共に追撃しますが、予見の力が起こり、エアルヌアをとどめて有名な予見の言葉を言います。
「追われるな。かの者は死すべき人間の男には倒されぬであろう」
グロールフィンデルはずっと裂け谷に住んでいますが、サウロンに滅ぼされたエレギオンの上のエルフの王国からエルロンドが生存者を伴い裂け谷を開いたときからエルロンドと共にいるのではないかと思います。裂け谷ではエルロンドに次ぐ地位をもっています。

指輪戦争のおりには、裂け谷に向かったフロドを探索するために派遣されたひとりで、ガンダルフを追ってきたと思われる3人のナズグルをひとりで追い払い、その後フロドたちを発見して(注2)傷ついたフロドを自らの愛馬アスファロスに乗せ、ブルイネンの浅瀬まで先導します。しかしここでナズグルたちに追いつかれます。
指輪の力によってなかなか逃げ出せないフロドを見てグロールフィンデルは、アスファロスに「ノロ リム ノロ リム アスファロス!」(早く走れアスファロス)と命じ。フロドをひとり馬で先に逃げさせます。浅瀬の中まで追った魔王を含む3人のナズグル(注1)はエルロンドとガンダルフの力により増水した川の激流に飲まれますが、岸に残った残り6人のナズグルはグロールフィンデルが激流に追い落としたのです。

さて、実は第1紀に同名の方がいます。ゴンドリンの大将のひとりで、金華家(House of the Golden Flower)の宗主でした。彼は黄色い髪のグロールフィンデルと呼ばれ、バルログと闘って相討ちになって戦死するという豪傑です。確かに埋葬までされたのですが、なにぶんノルドール・エルフのことなので死者の館「マンドス」に送られたあと(注3)、復活させられて中つ国に送られた、すなわち第3紀におけるグロールフィンデルと同一人物だということです(トールキン教授による裏設定のひとつのようですが、なぜそうされたのかは記述がありません)。


ゲーム内では裂け谷の「最後の憩いの館」の前の、イムラドリスの滝の近くの土手にひとりでたたずんでいます。クエストNPCでもありますので会った方は多いでしょうが、こんなに偉い方なのですよ(笑)。

                          *

(注1)ナズグルたちは火と水を恐れるのです。それにもかかわらず水の中まで魔王を含む3人が追っていきました。残り6人は川に入れなかったようです。で、長年疑問に思われているのは、ナズグルたちはいつもどうやって川とか渡っていたのだろう? ということ(笑)。雨の日なんかどうするんだろ?
(注2)このシーンが役をとられちゃってる部分です(笑)。映画ではフロド発見からブルイネンの浅瀬まで、グロ−ルフィンデルは一切出てきません。それ言えば映画のどこにも出てきませんけど。しかもグロールフィンデルは馬まで姫に取られちゃってる! アルウェン姫があの有名な「ノロ リム ノロ リム アスファロス!」って確かに言ってるんですよね。ううん、かわいそうに(笑)。原作と違ってフロドはアルウェン姫の前にいっしょに馬に乗ってたみたいですけど、姫はそんなおてんばじゃないですよ(笑)。
(注3)エルフは不死ですが、事故や戦死などで「死ぬ」こともあります。そうした場合死んだエルフの魂はアマンのヴァリノールにあるマンドスの「死者の館」に送られ、以後そこで暮らします。そして運命を司る者マンドスの許しがあれば、復活もできるのです。なおマンドスの館に送られるのはエルフのみで、人間をはじめその他の種族が死後どうなるのかは誰も知りません。
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2007年11月23日

【指輪物語豆知識】<中つ国の人々>親父さんたち

「それから」、れいによって長くなっております(笑)。いちおうキリのいいところなんで、少し休憩して(私が休みたかったりして(笑))、ゲーム内で会える指輪の仲間のお父さんたちについてちょっと書きましょう。

                        *

*ビルボ・バギンズ(Bilbo Baggins ホビット庄暦1290〜)ホビット 男
実父ではありませんが、フロドの養父です。「エルフの友」と呼ばれました。
フロドの叔父にあたります。『ホビットの冒険』の主人公でもあります。
『ホビットの冒険』では、ガンダルフにいいくるめられて、エレボール(はなれ山)に向かうトーリンU世ら13人のドワーフと共に「忍びの者」として同行します。数々の冒険の途中でビルボは「一つの指輪」を入手し、その姿を消す能力を利用して大活躍をし、結果的にはなれ山に居座る竜スマウグは倒され(ビルボたちが湖の町エスガロスから来たと勘違いしたスマウグが湖の町を襲い、そこで谷間の国の領主の末裔のバルドに弓により退治されます)、その後起こった五軍の戦いをへて、ビルボは「一つの指輪」とともにホビット庄に帰ります。
その後フロドに指輪を譲って、自らは旅に出、裂け谷に落ち着きます。
ゲーム内では裂け谷の「最後の憩いの館」の「火の広間」にいて、なぞ解きクエストの出題をしたり、バーグラーに伝説本の解説などをしています。


*ハムファスト・ギャムジー(Hamfast Gamgee ホビット庄暦1326−1428)ホビット 男
サムワイズ(サム)のお父さん。通称:とっつぁん。略称:ハム。
ビルボの代からバギンズ家の庭師を務め、サムにその仕事を継がせました。ビルボより36歳の年少で、サムワイズは彼の54歳の時の子供になります。指輪戦争当時は92歳だったことになります。
ゲーム内ではなぜか「オート麦農場」にいて、連続クエストの途中からの担当NPCになります。報酬のひとつで「サムの台所包丁」というのをくれます。短刀扱いの武器ですけど、サムの留守中に勝手にあげちゃって怒られないかと心配です(笑)。


*パラディン・トゥックU世(Paladin Took II ホビット庄暦1333−1434)ホビット 男
ペレグリン(ピピン)のお父さん。
メリーのお母さんのエスメラルダ・トゥックのお兄さん。ビルボの母方の従弟の息子で、ビルボより43歳の年少で、フロドより25歳の年長になります。ペレグリンは彼の57歳の時の子供。
セインです。ホビット庄の掃蕩のときはトゥック郷の指揮をとり、ごろつき共に対抗しました。かなりかっこいいお父さんです(笑)。
なおトゥック家では名前に○世とつく者が多いのですが、ピピンも正式にはペレグリン・トゥックU世です。代々のセインの家柄ということも関係あるのかもしれません。
ゲーム内では大スミアルの中にいます。クエスト関連NPCとしても登場します。


*サラドク・ブランディバック(Saradoc Brandybuck ホビット庄暦1340−1432)ホビット 男
メリアドク(メリー)のお父さん。
バック郷の館主(領主)です。メリーはその体格もあいまって「偉丈夫」と呼ばれましたが、このお父さんは「浪費家」と呼ばれています。なんでこんな名前がついたのか知りたいところです(笑)。
フロドの母方の従兄に当たり、フロドより28歳の年長。ビルボより50歳の年少になります。メリアドクは彼の42歳の時の子供です。
ゲームの中ではブランディ屋敷の玄関前に立っています。


*グローイン(Gloin 第三紀2783年〜第四紀15年)ドワーフ 男
ギムリのお父さん。ドゥリンの一族で王家の血をひいています(グローインの3代前のボーリンがダインT世王の弟にあたります)。
ビルボとともにトーリンU世に従ってエレボール(はなれ山)に遠征した13人のドワーフの一人。五軍の合戦でも生き残り、ダインU世の山の下の王国が再建されると、青の山脈からはなれ山に移住しました。その後はなれ山の王ダインの元にサウロンからの使いが来て、サウロンが「バギンズ」を探していることを知り、グローインは、ビルボへ警告するためと、サウロンの使者へどう対応すべきかの助言を求めるため、はなれ山からの使いとして、ギムリと共に裂け谷に派遣されて会議に出席しました。
ゲーム内では霧ふり山脈の入口近くに野営を張り、そこに息子のギムリといっしょにいます。

                          *

アラゴルンのお父さんは故人、ガンダルフは・・・まあいないでしょう(笑)。ボロミアのお父さん(ゴンドールの執政デネソールU世)、レゴラスのお父さん(闇の森のエルフの王・スランドゥイル)はまだゲームの中では会えません。いつか会えることを待ち望んでいます(^_^)
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2007年11月21日

【指輪物語豆知識(60)】<それから(10)>ホビット庄の掃蕩(5)

戦闘が終わり、コトン家に戻ったフロドが言いました。
「やれやれ、どうやら『お頭』を相手にする時が来たようだな」
そこで4人は袋小路屋敷に向かうことにしましたが、コトン爺さんは万が一ってこともあるからと25人ほどの屈強なホビットを護衛につけてくれました。

一行は徒歩で出発しましたが、袋小路屋敷に近づくほど、そのあたりの惨憺たる有様は胸をしめつけるようでした。
前方には大きな煙突がそそり立っています。そして一行が川向こうの昔ながらの村に近づくにつれ、道の両側に並んだみずぼらしい新しい小屋の間から、新しい製粉工場がその威圧するようなくすんだ醜さをさらけ出して見えてきました。川にまたがったその煉瓦造りの工場からは悪臭のする汚い水が川に流れ込んでいて、川の水を汚染していました。村道ぞいの美しい並木はすべて切り倒されています。
川を渡ってお山のほうを見た一行は息を呑みました。西側にあった古い穀倉は取り壊され、かわりにタールを塗った小屋が幾列も並んでいました。栗の木はもう1本もありません。土手は崩れ、生垣は破れ、袋枝道は砂地が大きく口を開け、砂利採取場と化していました。その先の袋小路屋敷はごたごたと並んだ小屋に遮られて見えません。ここでサムは悲痛な叫びをあげました。
「切り倒しちめえましただよ! 誕生祝いの木を伐り倒しちめえましただよ!」
ビルボとフロドが誕生日を祝ったあの立派な木は切り倒されたまま無残にもそこに横たわっていました。サムは涙がこぼれ落ちるのをどうしようもありませんでした。

袋小路屋敷の庭は小屋で埋まり、屋敷には人けがありません。ドアをあけると鍵もかかっておらずそのまま開きました。しかし屋敷の中はいやな臭いがし、汚れほうだい散らかりほうだいで、ここしばらくは人が住んだような様子がありません。
「ここはモルドールよりひどい! ここはわが家で、ここがこんなになる前を知っているからですだ」
サムが言いますと、フロドが答えました。
「そう、ここはモルドールだ。まさにその仕事の一つだよ。サルマンは終止モルドールの仕事を代行してた。自分では己れ自身のために働いていると思っている時ですらそうだった。そしてサルマンが騙して使った連中も同じことだ。ロソのように」
「あいつが惹き起こしたあらゆる害悪を前もって知っていたら、サルマンの喉首にぼくの持ってたたばこ入れを押し込んでやったのに!」
メリーが言うと、それに返事があったのです。
「ごもっとも、ごもっとも! だがお前はそうしなかった。おかげでわしはようこそお帰りとお前さんをここで迎えることができたわけだ」

玄関のわきのところに、ほかならぬサルマンが立っていたのです。フロドが叫びました。
「シャーキーか!」
「じゃあその名前は聞いていたんだな。アイゼンガルドではわしの家来どもがみんなわしをそう呼んでおったのじゃよ」(注1)
一同は外に出て、フロドがサルマンに言いました。
「さあ、すぐに立ち去れ! 二度と戻るな!」
そのとき成り行きを見るために屋敷の近くまできていたホビットたちが叫びました。
「行かせちゃならねえ! 殺しちまえ! そんな悪党は殺しちまってくれ!」
それを聞いてフロドは言いました。
「あだをもってあだを報いては何にもならない。何も癒しはしない。行け! サルマン。最も速やかな道をとって!」
「蛇! 蛇!」とサルマンが呼ばわると、蛇の舌=グリマが近くの小屋から出てきました。
「蛇よ、また旅に出るぞ! ここにおいでのご立派な方々、殿様方がまたわしらをさすらいの旅に追いやるのだ。さあ早く来い!」
サルマンは蛇の舌を従えてフロドのわきを通って行こうとしましたが、その瞬間サルマンの手にキラっと短剣が光り、すばやくフロドを刺したのです。しかしその刃はミスリルの胴着に阻まれてポキっと2つに折れました。10人ほどのホビットがサルマンに飛びかかり、地面に投げ倒しました。サムが剣を抜き放ちました。フロドが叫びました。
「いけない、サム! それでもかれを殺してはならない。かれは偉大だった。おいそれと手がふりあげられない高貴な者だった。かれは堕ちた。そしてその救済はわたしたちの力には及ばぬ。しかしそれでもわたしはかれがそれを見いだすことを望んで、命を助けたいと思う」
サルマンは起き上がって、まじまじとフロドを見ました。その目には感嘆と敬意と憎しみのまざりあった奇妙な表情が見られました。
「あんたは成長したな、小さい人よ。あんたはたいそう成長した。あんたは賢明にして残酷だ。あんたはわしの復讐から甘美さを奪った。そしてわしはこれからはあんたの慈悲を恩に着て、苦い思いを抱きながら行かねばならん。あんたの慈悲を憎む! あんたを憎む!」

かれはそのまま蛇の舌を連れて去ろうとしました。フロドが蛇の舌に声をかけました。
「蛇の舌よ! お前はかれについていくには及ばない。わたしの知る限りおまえはわたしに何も悪いことはしていない。ここでしばらく休息と食物を取ってゆくがよい。もっと元気が出て自分の好きなようにできるまで」
蛇の舌は立ち止まって、フロドを振り返り、喜んで留まる様子を見せましたが、そのときサルマンが言いました。
「何も悪いことはしとらんと? 蛇よ、哀れなロソがどこに隠れているのかやつらに言ってやらんかね?」
蛇の舌はへたへたと地に伏して、泣き声で言いました。「いやだ! いやだ!」
「それではわしがいってやろう。お前たちのお頭、気の毒なちびはな、この蛇に殺されたのよ。蛇め、そうだろ?」
蛇の舌の目に凶暴な憎しみの色が浮かび、怒った声でいいました。
「あんたがいいつけたんだ。あんたがさせたんだ」
「お前はいつもシャーキーのいいつけどおりにするんだ。次の命令はこうだ『ついて来い!』」
サルマンは腹ばっている蛇の舌の顔を蹴ると、背を向けて歩き始めました。その時、なにかがはじけ、蛇の舌は突然起き上がると隠し持っていた短剣を抜き、サルマンの背中に飛びかかるや、その頭をぐっと引いて、喉首をかき切り、大声でわめきながら道を駆け降りていきました。そしてホビットたちの矢が3本弦音高く放たれ、蛇の舌は死んで倒れました。

驚いたことにサルマンの亡骸の周りに灰色の靄がしだいに立ちこめ、非常な高さにまでゆっくりと登っていくと、屍衣でおおわれたおぼろな人の姿をとって、山の上にぼうっと浮かび出たのです。一瞬それはゆらゆらとゆらめいて西のほうに面を向けましたが、西から冷たい風が吹いてくると、それはたわんで運び去られ、微風とともに薄れ去って、何一つ跡をとどめませんでした。
サルマンの死骸はというと一気に年月を重ねたように、みるみる縮み、しなびた顔はおぞましい頭蓋骨をちぎれちぎれに覆う皮膚の断片と成り果てました。

「そうしてこれがこのことのおしめえですだ」サムが言いました。「後口の悪い終わり方ですわい。見ねえですめばよかっただが。でもこれで厄介ばらいになりましただが」
「そして今度の戦争もこれで本当に終わったんであればいいね」メリーが言いました。
「わたしもそうであることを望むね」
フロドはそう言って、ため息をつきました。

                          *

(注1)シャーキーは、オーク語で老人を意味する「シャーク」からきた名前ではないかと原注がついています。
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2007年11月19日

【指輪物語豆知識(59)】<それから(9)>ホビット庄の掃蕩(4)

その晩フロドたちはコトン爺さんの家に泊まり、やがてサムの迎えでサムのお父さんのギャムジーとっつあんもやってきて、いろいろと詳しいことを聞くことができました。
「お頭」に納まったロソは、最初あちこちの土地や製粉所、ビール醸造場、農場、宿などの施設を買いあさることから始めたようです。その資金がどこからでているのかは謎でした。そして大勢の人相のよくない人間たちを呼び寄せて、食糧やパイプ草などを買い占めて、それをどんどん庄外に送りだしていたようです。それら人相のよくない人間たちがどんどん増え、ホビット庄のあちこちに居座って、勝手に建物などを建て、わがもの顔にふるまいだして今のような状況になっていったということでした。
しかしそのロソの権勢もどうやらあやしくなってきたようです。というのもシャーキーという大親分みたいのが現れ、「お頭」の名前もだんだん聞かれなくなってきたからです。ロソが権力を失ったであろう決定的な証拠が、ロソの母親ロベリア・サックビル=バギンズの勾留事件でした。袋小路屋敷の前に勝手に長屋を建てようとしたごろつきどもにくってかかり、傘でごろつきの隊長に殴りかかって逮捕され、留置穴に放り込まれたのです。サックビル=バギンズ母子は大変に仲がよく、ロソがまだ権力の座にあるなら、そんなことが許されるはずがありません。ロベリアはまだ留置穴にいるそうです。

翌朝、追分方向から来るであろうごろつきの増援に備えて準備を整えていると、トゥック郷から早馬の伝令が来ました。伝令はこう伝えました。
「セインの呼びかけでわれわれの地方はすっかり立ち上がりました。そしてこの噂は野火のように地方に広がっています。われわれの里を見張っていたごろつきどもは南に逃げていきました。生きて逃れたやつはです。セインはやつらのあとを追っています。そっちにおるごろつきの集団を寄せ付けないためです。しかしセインは一族のなかから割けるだけの人数をつけてペレグリンさんをこちらに帰させました」
やがて一晩中偵察に出ていたメリーが戻ってきて4マイルばかり向こうにごろつきの一隊がいて、道々火をつけながらこちらに向かっていると告げました。その数はおよそ100名ほどだそうです。しかしこちらにも増援がありました。ごろつきどもより先にトゥックの一党100人を引き連れたピピンが戻ってきたのです。

ごろつきどもの一隊は、しっかりした指揮者もいないようで、なんの警戒もせずに東街道をやってきて、そのまま村道に入ってきました。この道はかなり長い間、頂に生垣のある高い土手の間を続いています。そしてしばらく行ったところでかれらは足を止めざるをえませんでした。前方に農家で使う古い手押し車を何台も逆さに置いた障害物に出くわしたからです。
そのときかれらは、両側のかれらの頭の高さよりちょっと高いぐらいの土手の上に、ホビットたちがずらっと並んでいるのに気づきました。そしてかれらの後ろは、畑に隠れていたホビットたちによって、手押し車がすばやく運ばれて、これまた遮断されてしまったのです。うろたえるかれらの頭上からメリーの声がしました。
「どうだ、お前たちは罠の中にはいり込んだのだぞ。武器を置け、それから二十歩後ろに退いて腰を下ろせ。囲みを破って出ようとする者はだれであろうと射殺すぞ」
しかしごろつきどもはひるまず、そのうち20人ほどが後ろの障害物に向かって突進しました。たちまち6人が射殺されましたが、残りは2人のホビットを殺して突破して末つ森のほうに逃げていきました。逃げる間にさらに2人が射殺されました。
メリーは高らかに角笛を吹きました。すると遠くからそれに答える呼び声がいくつも聞こえました。ピピンが言いました。
「遠くまでは逃げられないよ。あのあたりは今やこっちの追っ手でいっぱいなんだから」
残った80人ほどのごろつきたちは、てんでに土手を這い登ろうとしたり障害物を突破しようとして、戦闘になりました。なかでもいちばん強くて命知らずな一団は西側に抜け出して、逃げるよりも殺すことに専念し始めました。何人かのホビットが倒されてホビットたちがひるんだところに、メリーとピピンがその戦闘の渦に飛び込み、メリーは首領格のオークに似た大柄なごろつきを倒し、ピピンとともに戦線を立て直しました。そうして残ったごろつきたちを射手たちの囲む大きな輪の中に追い込み、それで決着がつきました。
この戦闘によって70人ほどのごろつきたちが殺され、10人あまりは捕虜となりましたが、ホビットの側でも19人が戦死し、30人ほどが怪我をしました。

フロドもその戦いの場にいたのですが、かれはとうとう剣を一度も抜きませんでした。フロドは興奮したホビットたちが降伏した者にまでうってかかろうとするのを止めていたのです。
この「水の辺村の戦い」は第3紀における最後の戦いであり、長く歴史にとどめられましたが、そこで勲をもっとも讃えられるのは指揮官のメリーであり、ピピンであり、コトン一家の名であり、フロドではありませんでした。
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2007年11月17日

【指輪物語豆知識(58)】<それから(8)>ホビット庄の掃蕩(3)

4人は村の中ほどまで小馬に乗って進みました。サムは途中で別れて、このあたりの核になるだろうコトン爺さんに会いに家に向かいましたが、その実はコトン家の娘のロージーに会いたかったのです。
そのときサムが進んでいく背後から、メリーの吹き鳴らすローハンの角笛の音が聞こえました。その音は丘を越え野を越えて響き渡り、その呼び声には人を引き寄せずにはおかないものがありました。サムでさえメリーの元に戻りたくなったほどです。やがて角笛は響きの調子を変えました。それはバック郷の緊急呼集の響きでした。
「起きろ! 起きろ! 事故だ! 火事だ! 敵だ! 起きろ! 火事だ! 敵だ! 起きろ!」
サムは自分の背後で人々のやかましい話し声や騒々しい物音を聞きました。そして前方からコトン爺さんが3人の息子とともに手に手に斧を持ってやってくるのに会いました。サムが事情を説明すると、コトン親子は「いよいよその時が来たか!」と喜んで、メリーの元へ向かいました。
サムもロージーに会ったあと、メリーの元へ引き返しました。サムが帰ってみると、村じゅうが奮い立っていました。もうすでに百人以上のがっしりしたホビットたちが、手に手に斧や長いナイフや重い槌や棍棒などを持って集まっていました。狩猟用の弓を持った者も何人かいます。村の外に散らばった農家からもまだ続々と集まってきています。皆の真ん中には大きな焚火が赤々と燃え、すっかり日の落ちた広場の闇を照らしていました。この焚火もお頭に禁じられていたことでした。
フロドたちを「護送」していた庄察隊の一行がやっと着きましたが、かれらはメリーの指揮によって道の東西に築かれつつある障害物の手前で一瞬あっけにとられたあと、その大部分が帽子についている羽を取り外して、そのまま反乱に加わりました。

フロドはコトン爺さんからいろいろな事情を聞きました。そのなかでも気になったのは、お頭=ロソをここ1〜2週間見てないということでした。
ごろつきどもはホビット庄全体に散らばっているけれど、300人以上はいないだろうということ、そして全ホビット庄が屈服したわけではないという朗報も聞けました。トゥック郷ではピピンの父親でもあるセイン(注1)のパラディン・トゥックU世の指揮のもとに郷を堅め、ごろつきどもを一歩も入れていないというのです。しかも押し入ろうとしたごろつきどもを何人も射殺し、ごろつきどももトゥック郷には手出しできず、ただ監視を置いているだけだとのことでした。ピピンのお父さんはこう言ったそうです。
「今この際にだれかがお頭役をするというのなら、それはホビット庄の正統なセインがなるはずのもんで、なりあがり者なんかにはさせられねえ」
ピピンは快哉を叫んで言いました。
「でかしたぞ。トゥック一党! ぼくはスミアルに行ってくる。朝になったらトゥックの一連隊を連れて戻ってくるよ」
そして数人の若者を連れて、トゥック郷の大スミアル(注2)へと向かいました。

やがてホビット村のほうに偵察にいったホビットが駆け戻ってきました。「やってくるぞ! 20人かもう少し多いぞ」そう言った偵察に出たホビットは、さらにそのうち2人がどこやらに別れていったと言いました。応援を呼びにいったのだろうとコトン爺さんが言いました。
「応援を集めるまでかなりかかるだろうから、そっちはいまんとこほっとけばええ」
さしあたってその20名です、メリーは作戦を伝え、準備させました。
20数名のごろつきどもは自分たちに歯向かうホビットがいようなどとは考えもつかず、脅し文句を並べながら焚火のところまでやってきました。焚火のところにはコトン爺さんがひとり立っていました。ほかには誰もいないように見えました。ごろつきの隊長が言いました。
「おめえは誰だ? それにいってえ何をしてやがるんだ?」
「わしはちょうどおまえさん方にそれを尋ねようよしてたんじゃ。ここはお前らの国じゃねえ。お前たちには来てもたいたくないわい」
「ほほう、ともかくお前には来てもらうぜ。手前たちこいつをひっとらえろ! 留置穴送りだ」
その瞬間、周りじゅうからどっと声が上がりました。闇にまぎれて200名ものゴビットたちにすっかり包囲されていることにごろつきどもはやっと気づいたのです。その包囲陣からメリーが進み出て言いました。
「お前は明るいところに立っている。射手たちの矢はお前に向けられいる。このお百姓に、あるいはだれにでも、指一本触れてみろ、すぐに射殺されるからな。身に着けている武器はなんなりと下に置け」
しかしごろつきの隊長は愚かにも闘うことを決めました。
「子分ども、いいか、かかれ! こいつらを懲らしめてやれ!」
そう命ずるとかれ自身は左手に長いナイフを握り、右手に棍棒をふりあげ、メリーに向かって突進しました。そしてその全身に4本の矢を受けて、隊長はその場で事切れました。子分どもはそれを見て戦意を失い、皆降伏し、武装解除されて監禁されました。
こうして「水の辺村の戦い」と呼ばれるホビットの戦いは始まったのです。

                        *

(注1)セインはその昔ホビット庄が北方王朝からホビットたちに下賜されたさい置かれた役で、王権の代行者と定められました。そこだけ見ますとゴンドールの執政職と同格に見えます。セインはホビット庄議会の議長であり、ホビット庄召集兵とホビット庄民兵の指揮官ですが、議会も軍隊も危急の時にしか召集されないため、ホビットの間ではセインはほとんど名誉職のように見られていました。
(注2)ホビットたちは元々丘陵地帯に穴を掘って住みましたが、やがてもっとも貧しい者と富裕な者以外は地上に家を建てるようになりました。スミアルというのは富裕な者の住む豪華なトンネル屋敷のことで、大スミアルは超豪華トンネル屋敷とでもいえばいいでしょうか(笑)。ゲーム内では地上の建物になっているのが残念です。袋小路屋敷も原作ではこうしたスミアルの一つです。
posted by ラリエン at 12:21| Comment(2) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月15日

【指輪物語豆知識(57)】<それから(7)>ホビット庄の掃蕩(2)

フロドたちは翌朝、ともかく袋小路屋敷まで行ってみようと小馬を連ねて出発しました。しかし夕方に蛙(かわず)村まで来ると、街道が柵で遮断されて「通行禁止」と書いてあるのです。柵の向こうには大勢の庄察隊が緊張して立っていました。そして帽子に羽を2本つけた隊長がフロドたちに宣言しました。
「貴公らを関所破り、制札廃棄、門番襲撃、無断侵入、および無許可にて庄の建物に泊まり、食物をもって警備人たちを買収した科(とが)によって逮捕する」
隊長はフロドたちを水の辺村まで連行して、お頭のところの大きい人たちに引き渡すと言うのです。フロドは言いました。
「わたしはたまたま用事があって袋小路に行くところだが、君たちが自分たちもどうしてもいっしょに行くというのなら、それはまあ君たちの勝手だ」
「よろしいですよ、バギンズ殿、しかし、貴公らはわが輩に逮捕されているのだということをお忘れなく」
「忘れないよ、絶対にね。だけど、あんたのことは許してあげてもいい」
フロドはその日はそれ以上進むつもりはなかったので、庄察隊に近くの庄察署まで案内させてそこに泊まりました。ですがフロドたちは別段武装解除されることもなく、監禁されることもありませんでした。多分フロドたちを怖がっていたのでしょう。
サムはかねてからの知り合いの、古い庄察隊員の小穴家のこまどりを見つけ、いろいろ聞きましたが、いやいややっている様子でした。そして庄察隊員は辞めることを許されないんだ、と悲しげにいいました。

翌朝フロドたちは12名の庄察隊員に護送されることとなりましたが、フロドたちが小馬を少し早く進めますと、ついてくるのがやっとで、まるで進軍する将軍を必死で追う兵卒たちのようで、どちらが逮捕されているのだかわからない有様です。
とうとう境石のところで庄察隊はへばってしまいました。メリーが言いました。
「じゃ都合のいい時にやって来給え! ぼくたちはこのまま行くから」
こうして「これは縄抜けと同じですぞ」と弱弱しく抗議する隊長をはじめ庄察隊を置いて、フロドたちは先へ進みました。

やがて彼らは水の辺村までやってきました。ここはフロドとサムの故郷です。そしてふたりはショックを受けました。あちこちが無残に変わっているのです。村道に並んでいた美しい並木はみな切り倒され、袋小路のほうに高い煙突が見えてもうもうと煙をはいています。見慣れぬ無骨な建物もいくつも建っています。
あいそのいい村人たちがドアを固くしめたまま、誰も挨拶に出ないのも異常です。やがてそのわけがわかりました。いまは閉鎖されて人けのない緑竜館の壁に、人相の悪い人間のごろつきが6人も背をもたせているのです。かれらは一様に棍棒を持ち、角笛をベルトにはさんでいます。そしてフロドたちが騎乗のまま進んでいきますと、その前に立ちふさがって言いました。
「お前ら、どこに行こうというつもりだい? これから先には行けねえよ」
そして、ここではじめて「シャーキー様」(注1)という言葉を聞きます。どうやら「お頭」の上にまだいるようです。
「お前ら、お頭のおやさしい気持ちをあまりあてにすんなよ、今じゃシャーキー様がおいでだからな。お頭もシャーキー様のいうがままよ。この国はちいっとばかし目を覚ましてな、世直しをする必要があるってことよ。シャーキー様がこれをしてくださろうってんだ」
フロドが、もう時代は変わったのだ、いまや南には王がおられる。いずれ王の使者がこちらにも来るだろう、と言いますと、ごろつきどもが嘲って言いました。
「王の使者だと! くそくらえだ! 使者の一人にでもあったら、ま、一応見知りおいてやってもいいぜ」
ピピンはここまで聞いて、がまんできなくなりさっとマントを後ろに回して、きらりと剣を抜きました。かれが馬を進めていくと、銀と黒のゴンドールの制服がかすかにきらめきました。
「わたしは王の使者だ、お前が話をしているのは王の友人であり、西方世界でもっとも功名高い人々の一人なのだぞ。お前はごろつきのうえにばかだ。大道に膝をついて許しを乞え。さもないとトロルをやっつけたこの剣をお前に向けるぞ!(注2)」
ピピンに加勢しようと、メリーとサムも剣を抜き放ち、ピピンと共に馬を進めました。でもフロドは悲しげに馬の背で動きませんでした。
ごろつきたちは慌てて一目散に逃げていきました。そして逃げながら角笛を吹き鳴らしました。

ごろつきどもが逃げ去ったあと、ピピンは夜の間隠れていられる場所を探さねばと言い、サムがそれならコトン爺さんのとこがいい。あの爺さんは剛毅な爺さんだからと提案しました。しかしメリーが「隠れることは何もならない」と反対して言いました。
「ホビット庄を立ち上がらせるのだ! さあ、われらの同胞を奮起させるのだ! 皆こんなことをひどくいやがっている。しかしホビット庄の連中はあんまり長い間とてもぬくぬくと暮らしてきたもんだから、どうしていいかわからないんだよ。だけど、かれらに必要なのは火縄だけだ。そうすりゃ火と燃えるだろう」
フロドはただこう言いました。
「戦いになるにしても、ホビットは絶対に殺してはならない。たとえ敵側につこうとしてもだ」

                          *

(注1)ゲーム内でも「シャーキーの男」とか、ブリー近辺のクエストでシャーキーの名前は出てきますね。
(注2)黒門前の戦いで、ピピンはトロルを倒しています。その後トロルの死体の下敷きになって気を失っているところをギムリに助け出されました。
posted by ラリエン at 10:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月13日

【指輪物語豆知識(56)】<それから(6)> ホビット庄の掃蕩(1)

雨にぬれ、疲れ果てた旅人たちがブランディワイン川に辿り着いたのは、日もすっかり落ちてからでした。ところが道は塞がれていたのです。橋の両側に忍び返しのついた大きな門があり、川の向こう側には新しい建物がいくつか建っていて、その陰気な風情はホビット庄らしからぬものでした。
一同が門をドンドンと叩いて呼ばわると、角笛の音が響き、声が聞こえてきました。
「だれだ? 失せろ! 中には入れんぞ。掲示が読めんのか? 『日の入りより日の出まで入門を禁ず』だぞ」
そして左側の建物から、ランタンを掲げたホビットたちがぞろぞろ出てきました。それらの中に見知った顔を認め、メリーが名乗ると仰天したようでした。メリーは古森で行方不明になって死んだと言われていたらしいのです。しかし門を開けろというメリーにそのホビット、ホブ爺さんは言いました。
「お気の毒ですがメリー坊ちゃん、命令が出てますんで」
「だれの命令かね?」
「袋小路のお頭ですだ」
「お頭? お頭だって? ロソのことを言っているのかい?」とフロドが聞きました。
「多分そうだと思いますだ、バギンズ様。けど、近頃はただ『お頭』としかいっちゃなんねんで」
「とは驚きだね! まあ、ともあれ、バギンズ姓を捨ててくれたのはうれしいよ。だが今は確かに一族の者がかれを相手どって身のほどを思い知らせてやるしおどきのようだぞ」
ホビットたちはシーンと黙り込みましたが、ひとりが言いました。
「そんなふうな口利くとためにならんでしょうぜ。お頭の耳に入ることになるだろうし、それに、そんなでかい音をたてると、お頭とこのでかいのが目を覚ますだろうから」
それを聞いてメリーが言いました。
「そいつがぎょっと驚くようなやり方でその目を覚まさせてやるぞ。お前たちのお偉いお頭が、荒れ野からやって来たごろつきどもを雇いいれているというんなら、ぼくたちの帰り方は早すぎたわけではないな」
メリーは小馬から跳び降り、掲示をひっぱがして門の向こうに放り投げて言いました。
「さあ、ピピン! 二人で充分だ」

メリーとピピンは門をよじ登り、向こう側に跳び下りました。ホビットたちは逃げ散りましたが、再び角笛が鳴り、1人の大きな人が小屋から出てきて叫びました。
「何の騒ぎだ、関所破りか! とっとと失せろ!」
しかしそこでその男は後ずさりました。剣のきらめきを認めたのです。マークの兜とローハンの騎士の武具をつけた威風あたりを払うメリーが(注1)剣を手に言いました。
「しだ家のビルだな、10秒以内にこの門をあけないと後悔するぞ。そして門を開けたら、おまえは門から出て二度と戻ってくるな!」
しだ家のビルは青くなって門を開けると、門の鍵をメリーに投げつけ、門の外に脱兎のごとく走っていきました。そしてこれ以降しだ家のビルの消息を聞いた者はありませんでした。

フロドたちは門番小屋に泊まることとして、ホブ爺さんに聞けるだけのことを聞きました。
いまホビット庄は「お頭」とその取り巻きの人間のごろつきどもにすっかり牛耳られていて、豊作だったにもかかわらず収穫物はすべて「集めや」にとりあげられ、「分けや」が分配するというのですが、分配は人間たちの間でだけ行われているようです。ホビットたちはビールを飲むこともままならない状況です。それというのも宿屋という宿屋が閉鎖させられたからです。パイプ草もいまや入手が困難です。大きい人たちが独占してるからです。
ホビットたちは遠出もできません。少しでも遠くに行くときは、あちこちに作られた庄察署に届けて許可を得なければいけません。庄察の人数も大幅に増えているそうです。「お頭」の決めた規則を破る者、さからう者は、大堀町の食糧倉庫を改造した「留置穴」に入れられてしまいます。そして、真っ先に抵抗したフロドの親友のフレデガーがここにいまも留置されているということなのです。
とにかく袋小路屋敷に乗り込んで、「お頭」と会う必要がありそうだとフロドは考えました。

                         *

(注1)メリーとピピンはエントの飲み物を何度も飲んだために、雲つくような大ホビットになっていました(笑)。なんと135センチもあったのです。ホビットの伸長は80センチから120センチですから、これは人間で考えたら、2メートルを越える大男といっていいと思います。
posted by ラリエン at 10:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月11日

【指輪物語豆知識(55)】<それから(5)>ブリー村

夕方も遅く、雨の降る中を一行はブリー村の南門に近づきましたが、門はしっかりと閉じられています。大声で呼ばわると、やがて門番が門をあけましたが、怖い顔をして棍棒を握りしめているではありませんか。しかし彼はガンダルフを認め、その連れも4人のホビットと知ると、緊張を解いて、「おはいりなされ!」と入れてくれました。中に入ると、何人もの男たちがこちらを窺っていて、ものものしい有り様です。
「躍る小馬亭」は外見は変わったところはありませんでした。案内を乞うと、下働きのホビットのノブが顔を出し、叫びました。
「バタバーの旦那! 旦那あー、戻って来ましただよ!」
「おう、戻って来たか? ひとつ懲らしめてやんべえ!」
バタバーもこれまた棍棒片手に飛び出してきます。しかし一行を認めると顔に喜色を浮かべて中に招じ入れました。どうもブリー村の様子が変です。

一行は気持ちのよい部屋に通されると、ほどなくバタバーが心づくしの夕食を運んできました。そして夕食のあと寝るまでの間、バタバーがやってきて、一行と情報の交換をしました。ホビットたちの話はバタバーを仰天させましたが、バタバーの話はあまり明るいものではありませんでした。最近ブリーのあたりはえらく物騒になっているというのです。大勢のならず者たちが流入してきて、ある晩などはならず者たちがブリー村の中にまで侵入して、3人の人間と2人のホビットが殺されたというのです。そのさい、かねてからうさんくさいと思われていた、しだ家のビルと門番をしていた山羊葉のハリーはならず者の側にたって、騒ぎのあとならず者と共に消えてしまったということでした。
その後ならず者たちはチェトの森や緑道の近くに住みつき、おいはぎ山賊と化して、そのために旅人もめったに通らなくなってしまったとバタバーは嘆きました。
「僕たちは何も見なかったけどな」とピピンが言いますと、バタバーが言いました。
「やつらがあなたさま方に手出しをせなんだのは、不思議もねえことで。やつらは、刀やら兜やら盾やらなんやらで武装してる衆には向かっていかねえのでごぜえます。皆様方のいでたちを見れば、やつらも考え直すちゅうわけで」
そこでホビットたちは初めて気づきました。かれらはいままで戦の只中にあり、きらびやかに武装した人々の中にいたからこそ当たり前の格好をしていたのです。しかしここでは、マントの下からのぞく輝く鎧や、ゴンドールやマークの兜、美々しい紋章に飾られた盾など場違いな感じでした。ガンダルフにしてからが真っ白い衣に身をつつみ、素晴らしい駿馬にまたがり、青と銀の大きなマントに身を包み、腰には名剣グラムドリングを帯びた勇ましいなりでした。

さて寝る間際になってバタバーが思い出して告げたことがありました。それは小馬のビルがひとりでこの「躍る小馬亭」に帰りついているという知らせでした(注1)。サムは歓喜してビルに会いにいきました。

一行は翌日も宿にとどまり、噂をききつけた人々が宿におしかけ、しばらく閑古鳥の鳴いていた「躍る小馬亭」もこの日ばかりは大盛況でした。
2日めの朝、ホビットたちはその日のうちにホビット庄に着くべく、早朝に出発することにしました。バタバーが出発にあたって気になることを言いました。ホビット庄でなにやらおかしなことが行われているというのです。気になりますが、行ってみればわかることでしょう。4人のホビットとガンダルフは大勢の人に見送られて、小馬のビルも仲間に加わって、全員騎乗姿も勇ましく、最後の行程に足を踏み出しました。

「バタバーさんがほのめかしたことはいったい何なのだろう?」しばらく進んだころフロドが言いました。
「それが何であるにせよ、その一番底にいるのはロソだよ(注2)。それは確かさ」とピピンが言いました。ガンダルフがそれに対して言いました。
「深いところにおるじゃろうが、底ではないな。お前さんたちはサルマンを忘れとる。彼はかなり前からホビット庄に関心を抱いていたからな」
「まあ、それでもあなたがいっしょにいてくださいますから」とメリーが言いますが、ガンダルフはそれを否定して言いました。
「わしはいまのところあんた方といっしょにおるが、まもなくいなくなるぞ。わしの時は終わったのじゃよ。ホビット庄のことはあんた方が自分でかたづけなくてはならん。それにあんた方は成長した。実に大きくなった。あんた方は偉大な者たちの数に入っておる。わしは心配しとらんよ」
やがてガンダルフは言葉どおりに一行の列から離れました。長年会っていないトム・ボンバディル(注3)に会いに行くというのです。ホビットたちは手をちぎれんばかりに振って、飛蔭の背でどんどん小さくなるガンダルフを見送りました。

「さあ、これでぼくたちだけになった、一緒に出発した四人だけだ」。メリーが言いました。「ほかの人たちはみんな、次々とあとに残して来たんだね。まるでゆっくりと醒めていく夢みたいだな」
「わたしにとってはそうじゃないね」。フロドが言いました。「わたしはもう一度眠りに落ちていく感じだよ」

                         *

(注1)もう1年以上前になりますが、フロドたちは東に向かう途中に「躍る小馬亭」に立ち寄りました。そしてその際に連れてきた小馬たちがすべて盗まれてしまい、やむなく相場の3倍という値段でしだ家のビルから小馬を買ったのです。このかいばもろくに与えられずに虐待されていた憐れな小馬はビルと名づけられ、サムの懸命の世話によってどんどん元気になり、とてもサムになつきました。しかしモリアの坑道にまでは連れて入れず、サムは泣く泣くモリア前で小馬のビルと別れたのでした。しかしビルは恐ろしい狼の群れが跋扈する中を抜け、ただ一頭で「躍る小馬亭」まで帰り着いていたのです。なおゲーム内で裂け谷にいるサムが「ビルの世話をしなくちゃな」とつぶやくビルとは、この小馬のことです。
(注2)ロソ・サックビル=バギンズ。ロベリアの息子で母親とともに昔から袋小路屋敷を狙っていた嫌われ者です。ゲーム内では袋小路屋敷玄関前にこの母子が立っています。
(注3)フロドたちの旅の往路でホビットたちの危機を何度も助けてくれた不思議な人物。ガンダルフと同じくマイアであろうといわれています。
posted by ラリエン at 12:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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