2008年03月31日

【指輪物語豆知識(112)】<LotRo小事典>アセラスetc

さてゲーム内にはいろいろな固有名詞がでてきます。これらの固有名詞が原作ではどういう意味をもっているのか調べて思いつくままにときどき書いてみたいと思います。

アセラス(athelas)
アセラスの名前が『指輪物語』で最初に出てくるのは、風見が丘でフロドがナズグルの首領に肩を刺されたおりです。
アラゴルンはサムにアセラスの葉を探してくるようにいい、集められたアセラスの葉を処方してフロドの傷の手当をします。フロドはそのためかなり楽になりました。

アセラスはシンダール語で「王の葉」(kingsfoil)の意味で、その昔にヌメノールから持ってこられた植物です。しかしこの本来の薬効は忘れらてしまい、ミナス=ティリスの人は「あれになにか薬効があるなどとは聞いたこともございません」といい、学者も「わたしどもの存じおる薬効は一つもない」と断言していました。さわやかな香りがすることから頭痛のときに使うぐらいだったのです。
しかしこの葉は「正当なる王の血筋」の手に使われることによって絶大な薬効を発揮するのです。アラゴルンはペレンノール野の戦いのあと、療病院に伏せる快復の見込みのない3人の者にアセラスの葉を処方して与えます。その3人とはナズグルの投げ矢に貫かれたファラミアと、魔王を刺し貫いて闇の力の逆流を受けたエオウィン姫とメリーでした。
こうして3人は快方に向かうのですが(注1)、アラゴルンが正統な王だからこその薬効でした。
なお本来の薬効が忘れられたとはいえ、ゴンドールでもお年寄りはこんな歌を伝えています。

黒い吐息が吐かれたら、
死神が陰を広げたら、
光がすっかり消えたなら、
アセラス、おいで! 王の葉、ここに!
絶える息の緒、蘇らせよ、
王様の手に渡されて。

ゲーム内では、士気回復薬として「アセラスのエッセンス」というものがあります。なんかこれ見るたびに、全国から送られてきた大量のアセラスの葉を、けんめいに「手かざし」かなんかで処方しているアラゴルンの姿を想像してしまいます(笑)。だってそのままじゃ薬効ないわけですからね。できた処理済みの葉は全国の研究家NPCに発送されて、その売上がハルバラドあたりに送られてドゥネダインの活動資金に・・(笑)。 


ケレブラント(Celebrant)
「ケレブラント軟膏」はゲーム内では気力回復薬ですが、原作に出てくるケレブラントは、シンダール語で「銀の水路」を意味する川の名前です。共通語では銀筋川。霧ふり山脈のケレド=ザラムから東へ流れ、ニムロデル川と合流しロスロリアンを横切ってアンドゥインの大河へと注がれる川なのですが、薬と関連のある名前ではなく、なぜ「ケレブラント軟膏」が気力回復なのか謎です(笑)。
なお銀筋川(ケレブラント)と白光川の間にある草原はケレブラントの野と呼ばれています。昔この地でゴンドール軍が敵の包囲を受けてあわや全滅というときに、北国のエオセオドと呼ばれた人々の族長エオルが騎馬軍団を率いて来援し、ゴンドール軍を救いました。時のゴンドールの執政キリオンはこの功に応えて、カレナルゾンの地をエオセオドへ割譲したのがローハンの始まりで、エオルが初代国王となりました。
ひょっとするとその故事からこじつけてるのかもしれませんね。もう駄目だ、全滅すると気力も消えうせたゴンドール軍に思わぬ援軍が到来して気力を持ち直したからと(笑)。ようは川のほうじゃなく野の名前からなのかもしれません。

                               *

(注1)このうちのふたりファラミアとエオウィンが療病院の中で知り合い、恋に落ちたのはまた別の薬効のようです(笑)。
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2008年03月28日

【指輪物語豆知識(111)】<ペレンノールの戦い(24)>王の帰還

3月15日。承前。ペレンノール野。

エオメルは絶望を嘲笑いながらもふたたび黒船を眺めやり、かれらに挑むように剣を振り上げました。するとその時、驚きがかれの心を奪いました。そして大きな喜びが。
エオメルは日の光の中に剣をほうり上げ、歌いながら落ちてくる剣を受け止めました。みんなの目もかれの視線のあとを辿りました。すると、いちばん先頭の船に大きな旗印が翻っているのが見えたのです。そこには白の木が花を咲かせていました。これはゴンドールを表すものでした。しかも木の周りには七つの星があり、木の上には高い冠がありました。これはエレンディルの印であり、もう数えられないほどの年月の間これを身に帯びる王侯はいなかったのです。
七つの星々は日の光を受けて炎のように輝きました。なぜならこれらの星々はアルウェンの手で宝石を使って作られたからです。そして王冠は朝日に燦として輝きました。ミスリルと金で作られていましたから。

こうしてアラソルンの息子アラゴルン、イシルドゥアの世継エレスサールは死者の道を通り抜け、海からの風に運ばれてゴンドール王国にやってきたのです。ロヒアリムの喜びはほとばしる笑いとなり、いっせいに打ち振る剣の閃きとなりました。そして城中の喜びと驚きはラッパの吹奏となり、打ち鳴らす鐘の響きとなりました。
しかしモルドールの軍勢は周章狼狽してなすところを知りませんでした。味方の船に敵が満載されているとは、いとも不思議な魔術としかかれらの目には映らないのでした。そして暗澹たる恐怖に襲われました。運命の潮の流れはかれらには不利な方向に変わり、命運尽きる時が間近にあることを知ったのです。

ハルロンドの波止場についた船団からは続々と人が飛び降り、嵐のように北上してきました。レゴラスが来ます、斧をふるいながらギムリが、旗印を掲げ持ってハルバラドが、額に星を置いたエルラダンとエルロヒアが、手ごわい腕を持つドゥネダインすなわち北方の野伏たちが、レベンニン、ラメドンそして南の諸封土の剛勇このうえない人々を率いてやってきます。
しかしこれらすべての先頭に立つのは新たな火が点じられたかと見える西方の炎アンドゥリル、すなわち遠い昔と同じく必殺の剣に鍛え直されたナルシルを持つアラゴルンでした(注1)。そしてかれの額にはエレンディルの星が輝いていました。

こうしてついにエオメルとアラゴルンは戦場のさなかで出会ったのです。二人はそれぞれの剣によりかかって互いに眺めあい喜び合いました。
「かくてわれらは再びめぐり会った。モルドールの全軍勢がわれらの間を隔ててるとはいえ」とアラゴルンはいいました。「角笛城でわたしはそういわなかっただろうか?」
「たしかにそういわれた」とエオメルがいいました。「しかし望みはしばしば裏切られるものであり、それにわたしはあなたが予見の力のある方だとは知らなかったのです。とはいえ思い設けぬ助けは二倍嬉しいものです。友人たちの出会いがこれほどまで喜ばしかったことはかつてなかったでしょう」。二人はしっかりと手を握り合いました。
「またこれほど時宜を得たことも」と、エオメルがいいました。「わが友よ、あなたの来方はけっして早すぎはしません。われらにはすでに多くの損失と悲しみがふりかかったのです」
「それではそのことを聞かせていただく前に、まずその復讐をしようではないか!」

こうしてかれらは戦いに戻りましたが、そうは簡単には敵を一掃できませんでした。南方国の敵は大胆にして不屈であり、追い詰められて自暴自棄になりいっそう荒々しくなっていましたし、東方から来た人間たちは百戦錬磨の強者(つわもの)たちで敵に助命を乞うことを肯んじえませんでした。
しかしやがて日が西に傾き夕日がペレンノールの野を赤く照らすころになって。ようやくこの大会戦は終わりを告げたのです。もはやランマスの区域内には一人として生きた敵はいませんでした。モルグルなりモルドールなり東方であろうと、生きて帰りつけた者はほとんどありませんでした。ことごとく討ち果たされたのです。南方ハラドリムの地にはただ噂だけが帰り着きました。ゴンドールの怒りと恐ろしさについての風聞でした。

アラゴルンとエオメルとイムラヒルは都の城門に向かって並んで馬を進めました。かれらは喜びも悲しみも感じられぬほど疲れ切っていました。三人ともかすり傷ひとつ負っていませんでしたが、他の大勢の者が傷を受け、不具にされ、あるいは戦場に斃れたのでした。ローハンのそしてゴンドールの名のある武将が、そして名もない兵士が数多く斃れました(注2)。北の野伏をとりまとめていたハルバラドも戦死しました。
ペレンノールの野では勝利をえましたが、この先どうなるのか、はなはだ心もとない勝利でした。モルドールに残る軍勢が押しだしてきたら、もはや支えるのは無理であろうと思えました。

                              *

(注1)ゲーム内でナルシルをアンドゥリルに鍛え直すクエストは感動しました(^_^)。
(注2)すべてが終わったあとにローハンの故郷に帰りついたロヒアリムは出陣したときの6000騎から4000騎に減っていました。2000もの騎士を失ったのです。

●大変長くなりましたが「ペレンノールの戦い」はこれで終わります。
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2008年03月25日

【指輪物語豆知識(110)】<ペレンノール野の戦い(23)>怒りと絶望

3月15日、承前。ペレンノール野。

残った王家の騎士たちは槍の柄を渡した上にマントをいくつか置いて応急の担架を作り、セオデンを都のほうに運び始めました。またエオウィンも同じようにして運び始めましたが、そのほかの騎士たちの遺骸まで運べず、王のかたわらで散った7人の騎士たちの亡骸を一箇所に集め、その周りに槍を置いてあとで埋葬にくることにしました。
この悲しい行列の傍らをメリーがのろのろとついていきました。メリーは疲れ果て、痛苦はその極みに達し手足はまるで寒気でもするようにがたがた震えていましたが、誰一人メリーを気に留める者はいなかったのです。(注1)

やがてメリーの目にゴンドール軍の前衛が近づいてくるのが見えました。その先頭にいたドル・アムロスの大公イムラヒルはかれらの前で手綱をひき言いました。
「ローハンの方々よ、あなた方は何を運んでおいでなのか?」
「セオデン王です、王は亡くなられました。しかしエオメル王が今は戦いの指揮をとっておられます」
そこで大公は馬から下りて担架の前に跪き涙を流しました。そして王のほかに運ばれている者を見ると驚きの叫びをあげました。
「まさかここにいられるのはご婦人では? われらの難局に際し、ロヒアリムのご婦人までが出陣してこられたのですか?」
「とんでもありません、ただ一人だけです。この方はエオメル様の妹御エオウィン姫です」
イムラヒル大公は姫の美しさにもっと近くで見ようと近づき、そして彼女の手に触れました。
「ローハンの方々よ! あなた方の中に医者はおられぬのか? 姫は傷を負っておられる。おそらく死ぬほどの深手であろう。だがわたしの見たところ姫はまだ生きておられる!」
イムラヒル大公は都に急使を走らせ、こうしてエオウィンはミナス=ティリスの療病院に運ばれることとなったのです。

ペレンノール野に繰り広げられる戦いは、いまやしだいに激しさを加えてきました。城壁の下ではゴンドールの歩兵がまだそこに大勢集まっているモルグルの軍勢を追い払っています。しかし騎兵たちはエオメルを援護すべく東に向かっていました。
一方エオメルは怒り心頭に発して突き進み、かれの攻撃は敵軍の前線を壊滅せしめ、大きな楔形の隊形を作って進む部下の騎士たちは、南の国の横に並んだ軍勢を完全に二分して通り過ぎ、敵の騎兵を潰走せしめ、歩兵を全滅させました。しかし巨大な象ムマキルのやってくるところではどこでも馬たちが一歩も進もうとせず、後ずさりして道をそれてしまうのです。それでこの巨大な怪獣たちは戦いをしかけられることなく守りの塔のように立ちはだかっていましたので、ハラド軍はムマキルの周りに再び集結しました。このハラド軍だけでもローハン軍の三倍はいましたのに、さらにオスギリアスからペレンノール野に新手の敵が続々と流れ込んできたのでした。モルグルの副官であるゴズモグが急遽送り込んできた援軍でした。
状況は悪くなる一方でしたが、そんなとき都の物見の兵から叫びがあがったのです。
「ウンバールの海賊船だあ! 見ろ! ウンバールの海賊船が来るぞ! 海賊船がわれらを襲うぞ! いよいよ万事窮すだ!」
アンドゥインの大河を海賊の大艦隊が遡上してくるのです。ロヒアリムたちはその知らせを聞くまでもありませんでした。かれらは徐々に大河の方向に押され、いまやかれら自身の目で多数の黒い帆の船が近寄りつつあるのを見られたからです。船着場とかれらの間には旧来の敵がひしめき、背後からは新たな敵がつめかけ、ゴンドール軍とかれらの間を完全に切り離していました。
エオメルの心からは望みが消え去り、モルドールの軍勢は勇気付けられました。しかしこうなるとエオメルの覚悟のほどは定まり、かえって精神は明晰になってきました。かれは角笛を吹かせて、ここまで来られる者をすべてわが旗の下に結集させようとしました。ここを最後と大きな盾ぶすまを築き、一歩も退くことなく最後の一人まで戦って、歌に残る功(いさおし)をペレンノールの野にたてようと考えたからです。かれは緑の小山に馬を駆り、そこに旗印を立てました。緑の地に白い馬がさざなみのように風になびきました。

迷妄から出、暗黒から出て、日の上るまで
陽光に歌いながら私は来た、剣を鞘に納めることなく。
希望の果てるまで胸の裂けるまで、私は馬を進めた。
今は怒りの時、今は滅びの時、赤き夜の来る時。

このような詩句をかれはくちずさみ、くちずさみながら声をあげて笑いました。かれの身内には再び戦意が湧き起こってきたからです。

                               *

(注1)メリーもまた魔王の闇の力が体内に逆流していたのですが、ホビットの持久力ゆえに歩くことさえできたのです。しかしそれも都の門にたどり着くのがやっとで、門のそばでへたりこんで一歩も動けなくなったところをピピンに発見され、療病院に運ばれることになります。
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2008年03月22日

【指輪物語豆知識(109)】<ペレンノールの戦い(22)>マークの王

3月15日。承前。ペレンノール野。

メリーがハっと目覚めるかのごとくに気がつくと、立っているのはかれだけでした。エオウィンは横たわったまま身動きしません。かれは栄光のさなかに倒れた王の顔を眺めると、屈んで王の手をとり、それにキスをしようとしました。するとどうでしょう、セオデンは目を開いたのです。王の目は澄んでいました。そして苦しい息の下から静かな声で口をききました。
「元気でな、ホルビトラ君よ! 予の体は砕けてしまった。予は先祖たちのところに行く。かれら偉大な父祖たちと一緒でも、予はもうわが身を恥じることはない」
メリーは口をきくことができず、涙を流して泣き、やっと言いました。
「お許しください、殿よ。殿のおいいつけを破りながら、殿へのご奉公になしたことといえば、お別れに際してただ泣くしかない仕儀で」
「嘆くでない! 許しているぞ。偉大なる勇気は拒まれることはないのじゃよ。これからは幸せに暮らすがよい。そしてそなたがパイプをふかしながら心安らかに坐る時には予のことを偲んでくれ!」
王はそう言うと目を閉じましたが、しばらくして再び口をききました。
「エオメルはどこじゃ? もう目がかすんできた。この世を去る前にあれに会っておきたい。予のあとを継いであれが王にならねばならぬ。それからエオウィンに伝言したい。あれは、あれは予が置いていくのを肯んじなかった。もうあの子には二度と会えぬのじゃ。実の姫よりいとしう思うていたが」
「殿、殿、」メリーはとぎれとぎれにいいました。「姫は-----」

しかしちょうどそのとき、非常に騒がしい叫びや物音が聞こえてきました。そしてまわりじゅういたるところで角笛やラッパが吹き鳴らされました。メリーは戦いのことも忘れ、世の中一切のことも忘れてしまっていましたが、いまや大会戦が始まろうとしていました。
敵の新手が大河からの道路を急進してくるところでした。それに外壁の下からはモルグルの大軍団がやってきました。そして南の広野からはハラドの歩兵部隊が騎兵を先行させてきました。かれらの背後には攻城櫓を載せたムマキルの巨大な背が盛り上がって見えました。
北のほうではエオメルの再び集結統合したロヒアリムの最前線に、かれの白い兜の前立てが部隊を率いていました。そして城の中からは、都に残る全軍勢が出てきました。ドム・アムロスの銀色の白鳥がその先頭に立ち、城門から敵を追い払いました。

やがてエオメルはちりぢりになった王家の騎士たちを集め、王を探してやってきました。エオメルは横たわるセオデンを見ると鞍から跳び下り、王の傍らに悲しみと落胆をもって立ちました。
そのとき騎士のひとりが死んで横たわっている旗手のグスタフの手から王旗をとり、それを高く掲げました。ゆっくりとセオデンが目を開き、その旗をエオメルに渡すように目で知らせました。
「万歳! マークの王よ!」とセオデンはいいました。「今ぞ勝利に向かって駆けよ! エオウィンにさよならをいってくれ!」
こうしてセンゲルの息子セオデンは息を引き取りました。エオウィンが近くに横たわっていることも知らずに。
エオメルは嘆き悲しむ騎士たちにいいました。

「あまりに深く悲しみに耽るな、斃れたのは猛き人だった。
その最期はかれにふさわしかった。かれの塚が築かれる時、
女たちに泣いてもらおう。今は戦いが呼んでいるではないか!」

こういいながらかれ自身も泣いていました。
エオメルは王家の騎士たちにセオデンの亡骸を護送して都に運ぶように命じました。そしてセオデンの周りに斃れている王の騎士たちの顔をひとりひとり確認するように見ていきました。そしてその時ゆくりなくも横たわっているおのが妹のエオウィンを見たのです。かれには姫がわかりました。かれは一瞬あたかも叫び声をあげた中途で心臓を矢で射抜かれた人のように突っ立っていました。それからその顔は死人のような白さに変わりました。そしてかれの心に冷たい激しい怒りが湧き上がってきて、ものにとり憑かれたかのように異常に興奮した状態がかれをとらえました。
「エオウィン! エオウィン! どうやってここに来たのだ? なんという狂気の沙汰だ、それとも悪魔の仕業か? 死だ、死だ、死だ! 死がわれら全員を奪うのだ!」
それからかれは騎乗し、ローハンの大軍勢の先頭にまっしぐらに駆け戻り、角笛を吹き鳴らして大音声で進軍を命じました。
「死だ! 進め、進め、破滅に向かって、この世の終わりに向かって!」
そしてその呼びかけと共にローハン軍は動き始めました。しかしロヒアリムはもう歌いませんでした。「死だ!」かれらは異口同音にすさまじい声で叫びました。そして大きな津波のようにしだいに速さを増し、蹄の音を轟かせて南のほうに去っていきました。
「死だ! 死だ! 死だ!・・・・・・・・・」
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2008年03月19日

【指輪物語豆知識(108)】<ペレンノール野の戦い(21)>エオウィン

3月15日。承前。ペレンノール野。

当座の驚きがメリーの恐怖心を克服しました。目をあけてみるとかれから数歩程度隔たったところに大きな獣がうずくまっており、その周りは何もかも暗く見えました。獣の上にナズグルの首領が絶望の影のように浮き上がって見え、その両者と向き合って少し左手のほうにかれがデルンヘルムと呼んでいた婦人が立っていました。いまや彼女の秘密を守っていた兜は落ち、その輝く髪が束縛から解き放たれて、薄い金色にきらめいて両肩にこぼれ落ちていました。海のような灰色を帯びた目は厳しく容赦がありませんでしたが、その頬には涙が流れていました。右手には剣を握り、もう一方の手には盾を持ち上げて恐ろしい敵の凝視に対していました。

これはエオウィンでした。そしてデルンヘルムでもありました。なぜならメリーの心には馬鍬砦を出発するときに見た顔の記憶がはっと思い出されたからです。望みを持たず、死を求めに行く者の顔でした。同情の念がメリーの心を満たしました。それと同時に強い驚嘆の念も。そして不意にかれの種族特有の燃え立つのに時間のかかる勇気が目覚めました。かれは手を握り締めました。このひとは死んではいけない。こんなに美しく、こんなに身を捨てて! 少なくとも助けを知らずにただひとり死んではいけない。
黒の総大将は眼前の女にその敵意のありったけを注いでおり、その顔はかれのほうには向いていませんでした。メリーは少しずつわきのほうへ這い進みました。

突然巨大な怪鳥が見るも恐ろしい翼をばたつかせると再び空に飛び立ち、エオウィンめがけて舞い降り、そのくちばしと鉤爪で打ってかかりました。それでもロヒアリムの乙女はたじろがず、素早い一撃を翼ある獣に加えました。それは熟練した致命的な一撃であり、怪鳥の伸ばした頚を真っ二つに切り落としました。そしてそれと同時に影が消え去り、姫の周りには光が射し、その日射しを受けて彼女の髪が輝きました。

怪鳥の残骸から黒の乗手が身を起こし、彼女を見下ろして立ちはだかりました。そして耳朶を毒で冒すような憎しみの声を一声あげて、黒い矛を振り下ろしました。彼女の盾は木端微塵に割れて盾もつ左手が折れました(注1)。姫はよろめいて膝をつきました。黒の乗手の目がきらっと光り、かれはとどめをさそうと矛を振り上げました。
しかし突然かれも激しい苦痛の叫びをあげて前によろめきました。そして振り下ろした矛はそれて、地面に打ち込まれました。メリーの剣が背後からかれを刺したのです(注2)。黒いマントを切り、鎖かたびらの下まで貫いて、その強い膝の背後の筋肉を刺し通しました。
「エオゥイン姫! エオウィン姫!」とメリーは叫びました。
そのとき姫はふらつく体をようやくに起こし、最後の力をふりしぼって、大きな敵の体がわが前にかしいでくるところを、かれの顔のあたり、王冠とマントの間にぐっとその剣をつっこみました。
剣は火花を散らしてたくさんの破片に砕けました。エオゥインは倒れた敵の上に崩れおれました。敵を刺した瞬間、闇の力が姫の体に逆流し致命的な毒ともいうべき衝撃を受けたのです。
姫に刺し貫かれたナズグルの首領といえば、驚いたことにマントも鎖かたびらももぬけのからなのです。どちらも切り裂かれてくしゃくしゃになって、形もなさず地面に横たわっていました。そして一声叫び声があがって大気を震わせたと思うと、それもしだいに力を失って甲高く泣き叫ぶ声となり、風とともに消え去りました。体のないか細い声が、徐々にかすかになって吸い込まれ、この世界のこの時代にはもう二度と聞かれることはありませんでした。

*

(注1)このためにエオウィンはこの後「盾の腕の姫(Lady of the Shield-arm)」と呼ばれるようになります。
(注2)メリーの剣は塚山出土の剣であり、トム・ボンバディルが選んでくれた剣です。その昔北方王国のドゥネダインの王国で鍛えられた業物で、その刃には闇の王を呪うルーン文字が刻まれていました。このルーン文字のためにかつてメリーとピピンがオークに捕らわれたときもオーク共はこの剣に触れることを忌み捨てていかれ、レゴラスに回収されたのでした。なお魔王を刺したあと、この剣の刃は溶けてしまったといいます。
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2008年03月16日

【指輪物語豆知識(107)】<ペレンノールの戦い(20)>幽鬼

3月15日。承前。ペレンノール野。

セオデン王は敵をさがしながら都まで1マイル足らずのところまできてようやくその速度を落としましたので、王家直属の騎士たちもその周りに集まることができました。その騎士たちのなかにはデルンヘルムもおりました。
ロヒアリムたちはここかしこと意のままに駆け回り、オークたちを蹴散らし、ペレンノール野の優に北半分を席捲していましたが、まだ城の囲みを打ち破るまでにはいたりませんでしたし、城門に達してもいませんでした。城門の前にはまだたくさんの敵がいましたし、野原の残り半分にはまだ戦っていない別の敵たちがいました。

都から大河にいたる道路の向こう側にはハラドリムの主力部隊がおり、かれらの騎馬隊がいました。ハラドリムの騎馬隊の隊長はしだいに明るくなる光の中にローハンの王旗を認めました。王旗はずっと前に出ており、そのまわりには僅かな者しかいないことを見ると、ハラドリムの騎馬隊長は緋色の地に黒の蛇の旗印を掲げ、ひしめきあう部下を率いて緑の地に白馬の駆ける王旗目指して三日月刀をふりかざして突進してきました。
そのときセオデンもかれに気づき、その攻撃を待つことなく、愛馬の雪の鬣(たてがみ)に一声かけるとかれを迎え撃つべく猛然と突進していきました。両者の出会ったその激突ぶりはすさまじいものでした。セオデンが敵の首領を打ち倒したとき、かれの槍は木端微塵に砕け散りました。セオデンはさっと剣を抜きはなち、敵の旗印めがけて馬を走らせ、旗竿もろとも旗手を一刀両断に討ち取りました。敵の騎馬部隊のなかで討たれずにいる者は、みなちりぢりに逃げ去りました。

しかしこのとき、突然王の黄金の盾の光がにぶったのです。暗闇が王の周りにたちこめました。馬たちは後ろ足で立って悲鳴をあげました。鞍から投げ出された人間たちも突然襲い来たった恐怖のために地面に這いつくばりました。
「予の許に! 予の許に!」セオデンは叫びました。「立て、エオルの家の子よ! 闇を恐れるな!」
しかし雪の鬣は恐怖のあまり動転して後ろ足で高く立つと、空を打ち、それから恐ろしい悲鳴を発して、わき腹を下にどうと倒れました。一本の黒い矢が馬を貫いたのです。王は馬の体の下になって落ちました。(注1)
恐怖は空から首の長い翼のある巨大な獣に乗って舞い降りてきました。獣は雪の鬣の死体の上に降りました。そしてこの獣にナズグルの首領の魔王がうちまたがっていたのです。
このとき王家直属の騎士たちは殺されて王のまわりに横たわるか、狂奔する乗馬に運ばれて遠くに走り去ってしまっており、王を守る者は誰も残っていませんでした。いや、ただひとりの騎士がその場に立っていました。デルンヘルムでした。かれは泣いていました。なぜならそこに横たわる王は父とも頼み愛する人でしたから。
メリーもいました。デルンヘルムの乗馬は恐怖にかられ、主人とメリーを放り出して走り去ってしまったのです。しかしメリーもまた激しい恐怖にかられており、獣のように腹ばってあまりの恐ろしさに目も見えずただぶるぶる震えているだけでした。
そのメリーはデルンヘルムがなにか言っているのを聞いた気がしました。その声は聞きなれないものに響き、かれが知っている誰か別の人の声に聞こえました。

「立ち去れ、けがらわしい化け物め、腐肉漁りの頭よ! 死者に手を触れるな!」
それに冷たい声が答えました。
「ナズグルとその餌食の前に邪魔立てするな! さもなくば貴様の番になっても貴様を殺さぬぞ。殺さずに真っ暗闇の彼方にある嘆きの家に連れていくぞ。そこで貴様の肉は喰い尽くされ、縮みあがった心の臓だけが瞼なき御目の前にむき出しに置かれるのだ」
「やりたいようにやれ。だがわたしは邪魔をするぞ。できることならな」
剣を抜く音とともにデルンヘルムが言いました。
「おれの邪魔をするだと? 愚か者め。生き身の人間の男にはおれの邪魔立てはできぬわ!」
するとデルンヘルムが声をたてて笑ってその澄んだ声がこういったのです。
「しかしわたしは生き身の人間の男ではない! お前が向かいあっているのは女だ。わたしはエオウィン、エオムンドの娘だ。お前こそわたしの主君にして血縁である者とわたしの間に立って邪魔をしている。----不死でないというなら立ち去れ! もしお前がわが殿に手を触れれば、生き身であれ、幽暗にただよう者であれ、わたしはお前にこの太刀をくらわすぞ」
指輪の幽鬼はあたかも不意に疑念を懐いたかのように、何も答えず黙していました。

                             *

(注1)重い甲胄をつけて落馬するだけでも大変な衝撃ですのに、さらに馬のなかでもひときわ大きな雪の鬣の体が落下してきたのですから、71歳のセオデンは致命的な傷を負ってしまったのです。
posted by ラリエン at 12:47| Comment(3) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月13日

【指輪物語豆知識(106)】<ペレンノールの戦い(19)>夜明け

3月15日。ローハン軍。

14日の深夜(日付は15日)、ローハン軍は音もなくランマスの防壁に近づいていました。王は先頭部隊の真ん中にあって、王家直属の臣下を周りに従え進んでいました。エルフヘルムのエオレド(軍団)はそのあとに続いていましたが、デルンヘルムは徐々に王に近づき、しまいには王の近衛隊のすぐ後ろにまで馬を進めているのにメリーはきづきました。やがて先頭部隊が停止しました。斥候が戻ってきて王に報告しているようで、その声が聞こえました。
「方々で火が燃え盛っております。都はすっかり炎で攻め立てられ、ペレンノール野は敵軍で埋まっております。しかし敵軍は全員移動して攻撃に転じるようです。外壁には僅かしか残っておらず、その連中も壊すことに忙しく、よそに注意を払っておりません」
そのとき高地に住むウィドファラという騎士が、ガンのいっていたように風向きの変わるのが感じられる、かすかなそよ風が南から吹き始めていると告げました。
セオデン王は騎士たちに向き直り、澄んだ声で言いました。
「マークの騎士よ、エオルの家の子よ! 今ぞ時は来た。敵と火がそなたたちの前方にあり、故郷は遥か後方にある。しかし、たとえ異郷の地に戦おうとも、そなたたちがその地で獲得した誉れはとことわにそなたたち自身のものとなろうぞ。おんみらは数々の誓言をたてた。今こそそれらを悉く果たせ、主君と国と盟邦のために!」
騎士たちは盾に槍を打ち付けてそれに応えました。

外壁が立っていたところまでは1リーグ(4.8km)もありませんでした。やがて荒々しい叫び声が起こり、武器の触れ合う音が聞こえましたが、それも短い間でした。外壁を壊す仕事に忙しく立ち働いていたオーク共は数が少なく、あっという間に討ち取られるか追い払われてしまったのです。
王はランマスの防壁の北門の廃墟の前で馬を停め、陣形を整えました。エオメル指揮下の第一軍団が王を囲むようにつめていました。エルフヘルムの軍団は右手の持ち場に離れていきましたが、デルンヘルムは王のそばを離れようとしませんでした。
デルンヘルムの後ろに乗っていたメリーは、王の向こう、ペレンノールの野を眺めましたが、およそ10マイル(約16km)ほど向こうに盛んに火の燃えているのがわかりました。

やがて前進の合図があり、ローハン軍はついにゴンドールのペレンノール野に静かに入っていきました。しかしモルドール軍はミナス=ティリスの門前に集結しているもようで、その注意は前方にのみ注がれており、だれひとりローハン軍の侵入に気づきませんでした。それどころかランマスの防壁からいちばん近いかがり火まで1リーグほどの間はまったくの無人のままでした。そのいちばん近いかがり火のそばにさえ敵がいるのかどうか、暗闇を通しては見通せませんでした。
しばらく進みましたが、挑んでくる敵はひとりもいません。王もまた合図もせぬまま少し東よりに進み、そして停止しました。セオデン王はじっとゴンドールの都の方角を見ているようでしたが、メリーはあまりにも長く感じられるこの静止状態に、王は臆されたのではあるまいかとさえ思い始めました。
そのときメリーは突然感じたのです。変化です。風を顔に受けたのです! ほのかな光があらわれました。ずっとずっと南のほうでは雲が巻き上がり、その雲の先には朝があるのです。しかしこれと時を同じくして閃光がひらめきました。あたかも都の下の大地から稲妻が走ったように。焦げるかと思われる一瞬、それは遠くまで黒白の目の眩む光芒を放ち、その先端がきらめく針に見えました。そしてそのあと暗闇が再び閉じる時、一大轟音が野を渡って轟き渡りました。
この轟きに王は背筋を伸ばし、鐙(あぶみ)の上に立ち上がって声高く呼ばわりました。その声は居合わせた誰もがかつて命ある人間の口からは聞いたことがないほどにはっきりと澄んだ声でした。

「立てよ、立て、セオデンの騎士らよ!
捨身(しゃしん)の勇猛が目覚めた、火と殺戮ぞ!
槍を振るえ、盾をくだけよ、
剣(つるぎ)の日ぞ、赤き血の日ぞ、日の上る前ぞ!
いざ進め、いざ進め、ゴンドールへ乗り進め!」

こう叫ぶと同時に、王は旗手のグスラフの手から大角笛をひっつかみ、これが粉々に飛び散るほど朗々と吹き鳴らしました。するとただちに全軍の角笛が嚠喨(りゅうりょう)と吹き鳴らされました。こうしてローハンの角笛の音は、平地では嵐のように、山間部では雷のように轟き渡りました。

「いざ進め、いざ進め、ゴンドールへ乗り進め!」
いきなりセオデン王は愛馬「雪の鬣(たてがみ)」に向かって呼びかけ、馬の長メアラスの一族たる雪の鬣は身を躍らせて走り始めました。王の背後には草原を表す緑の地に白馬の駆ける王旗が翻っていましたが、王の旗手も王家直属の騎士たちも誰もセオデンに追いつくことはできませんでした。
王はその黄金の盾の被いを取り外しました。すると盾は太陽の化身さながらに燦然と輝き、乗馬の白い足の駆けるところ、草は緑に燃え立ちました。夜明けがきたのです。夜明けと風が海から訪れたのです。
モルドールの軍勢は泣きわめきました。恐怖がかれらを捕らえ、逃げまどって絶命しました。そしてその上を憤怒に駈られた蹄(ひづめ)が踏みにじっていきました。
やがて全ローハン軍は突然歌を歌い始めました。かれらは殺しながら歌いました。美しくも恐ろしいその6000騎の歌声は城市にさえ聞こえました。
posted by ラリエン at 09:27| Comment(1) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月12日

【ゲーム内イベント=演奏会】

フィルハーモニーさん主催のゲーム内演奏会がまたまた開催!
ということで、御案内。
私も毎回出演させていただいてるので、ということで。

                  *

第三回フィルハー演奏会のお知らせ

 スプリングコンサートのお知らせです。
     
「A鯖にて」
日時 3月22日(土)夜22時開演〜2時間を目処に
場所 ブリー村、水鏡前のステージを予定。
(※場所につきましては現在、尚も検討中。変更の可能性があります。)

                   *

参加方法など詳細は下記ブログをご参照ください。

http://kenihirofuji.lotroblog.jp/article/14132.html

もちろん聞きにいくだけもあり(^_^)。
みなさん素晴らしい演奏で、今回は演奏システムに変更が入ってから初の演奏会なのでいまから楽しみです。
原作に今回のテーマの「春」っぽい詩があればいいんだけど・・・・。
posted by ラリエン at 14:02| Comment(0) | TrackBack(0) | イベント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月10日

【指輪物語豆知識(105)】<ペレンノールの戦い(18)>ガン=ブリ=ガン

3月13日(深夜・日付は14日)。ドルアダンの森、ローハン軍。

4日の間というもの馬に乗り続けてメリーは疲れ果てていました。いまローハン軍はランマスの防壁まで一日の距離まできていましたが、軍は足をドルアダンの森にとどめて王たちは協議をしているもようでした。どうも偵察隊がまずい状況を知らせてきたらしいのです。それはミナス=ティリスに至る道に塹壕が掘られ、オークと人間の大軍が防衛線をはっているというもので、とても突破できるような数ではないということでした。
いつでも出発できるよう準備は怠らないようにと全軍に伝えられていましたが、出発命令はいっこうに来ません。不安に思っていたメリーはそのとき太鼓の音が聞こえているのに気づきました。メリーはちょうど通りかかったデルンヘルムの属する軍団の長エルフヘルムに、あの太鼓の音は敵でしょうか? と聞きました。エルフヘルムは否定して答えました。
「いやいや、敵は街道にいるんで、山にはいない。あんたの聞いたのはウォーゼたちだ。この森に住む野人たちだ。かれらはこうして互いに遠くから話し合うのだ。かれらは古い時代の名残を留める者たちで、いまは数も少なく人目に触れぬよう暮らしている。獣のように野性的で用心深いのだ。かれらはくらべようもないぐらい森林に詳しくて、それでセオデン王に助力を申し入れてきたのだよ。いまかれらの長が王の許に訪ねてきたところさ」
メリーはその長がどんな話をもってきたのか興味をひかれて、こっそりと王のもとに近づきました。なにせ王には同行を禁じられている身ですからみつかってはいけません。

王はエオメルとともに小さな灯りを枝からさげた大樹の下に座っていました。そしてその前に妙なかたちでうずくまったひとりの男が座っていました。かれは古さびた石のようにごつごつしており、身につけているのは腰蓑だけでした。メリーは以前どこかでその野人を見たような気がしました。そしてハッと気づきました。かれは馬鍬谷で見た石像群「プーケル人」にそっくりあのです。ウォーゼという種族はプーケル人の裔かもしれないとメリーは思いました。
やがて野人はしゃべりはじめましたが、その太くて低い耳ざわりなきしみ声は、それでも共通語でした。それはなにかへの答えのようでした。
「いいや、馬乗りたちの長老よ、わしら戦わない。探し出すだけ。森にいるゴルグン殺す。オーク共憎む。あんたもゴルグン憎む。わしらできること手伝う。石の都閉まってる。外側火燃えてる。今は中も燃えてる。あんたがたあそこに行きたいね? それなら急がなきゃいけない」
この大酋長ガン=ブリ=ガンと名乗る野人はミナス=ティリスに至る街道が敵でふさがれていることも知っており、あの道ではなく。誰も知らない道に案内できるというのです。その道は遥か昔にゴンドールが繁栄の頂点にあったころに、ミナス=ティリスからドルアダンを通ってリンモンに至る荷馬車の道であったそうです。しかしいまやこの道を覚えている者は野人たちのほかになく、ゴンドールの人々も忘れ去っている道だというのです。
セオデンはこの野人に賭けることとして言いました。
「あなたに案内してもらうのなら、われらは足で歩く速度で進まねばならぬ。それに道はおそらく狭いだろうから」
「野人足速い」ガンがいいました。「道、向こうの石車谷で馬四頭並ぶ広さある。しかし始めと終わり狭いね。野人ここからディンまで日の出から昼までに歩ける」
「それではわれらは先頭部隊に少なくとも七時間は見積もっておかねばなりませぬ」とエオメルがいいました。「しかし全体としては十時間ばかり見ておかねばならぬでしょう」
すでに14日の夜明けでした。ただ暗闇の続く夜明けではありましたが・・・・・。

こうしてローハン軍は野人の案内で行軍を再開しました。
道はガンのいうとおりであり、狭かった道も石車谷におりると広がって行軍速度をあげることができました。谷の両側は崖になり、誰の目からも6000の騎馬軍団が隠れて進めました。やがてその道もまた狭くなり先頭部隊が停まりました。石車谷を出たのです。ここで休憩のため野営をすることとし、王は将官たちを集めて軍議を持ちました。その場にはガンの放った斥候も加わり、状況を説明しました。斥候の言葉をガンが通訳しました。
「ここから石の人たちの新しい外壁までは一人も見えない。外壁でたくさんたくさん働いている。壁はもう立っていない。ゴルグンたち土の雷と黒鉄の棒で壁を打ち倒した。ゴルグンたち用心していない。周り見回さない。自分の味方全部の道見張ってると思ってる!」
セオデンはランマスの防壁がローハン軍の突入の障害になることを恐れていたので、この報告は願ってもいない状況と喜びました。そしてこのあたりからは土地鑑のある者もいたので案内は不用として、王は謝意を表して、野人たちとここで別れることにしました。
「もう一度あなたにお礼をいうぞ、森の人、ガン=ブリ=ガンよ、数々の知らせと道案内に対し、そなたに幸運あれ!」
「ゴルグン殺せ! オーク共殺せ! ほかに野人喜ばす言葉ないよ。光る鉄で、悪い空気、悪い暗闇追い払え!」
「それをなすためにわれらはかくも遠くまでやって来たのだ。われらは挑戦してみるぞ。われらの成し遂げることは明日になればわかるだろう」
ガンはうずくまって別れのしるしに頭を地面にちょこんとつけました。そして立ち去ろうとするときに妙な空気をかいではっとする動物のように上を見上げました。その目に光が点りました。
「風の向きが変わった!」ガンは叫ぶとかれと従者たちはまたたくまに暗がりに溶け込みました。
ガンが去ってしばらくしてからエルフヘルムの放った斥候が戻り、エルフヘルムがこう伝えました。
「何一つ報告すべきことはありません。ただ二人の死者を見いだしただけでした。この二人はゴンドールの使者たちです。一人はおそらくヒアゴンでしょう。少なくともかれの手には今なお赤い矢が握り締められているのですが、その首は切り落とされていました」
「何たること!」とセオデンがいいました。「それではデネソール殿はわれらの出陣のことは何も聞いておられず、われらの来援の望みをすっかり絶っておられるだろう」
「危急に遅延は許されぬが、遅れても来ぬよりまし、と申します。今度の場合ほどこの古い諺が真実であることの立証されることはないでしょう」
とエオメルがいいました。
posted by ラリエン at 09:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月07日

【指輪物語豆知識(104)】<ペレンノールの戦い(17)>デネソール

3月15日夜明け。ミナス=ティリス。

城門にいた暗い影が退いても、ガンダルフはまだみじろぎもせず飛蔭にまたがっていました。しばらくしてからガンダルフはふっと不動の姿勢をといて、飛蔭に声をかけて門を出て行こうとしました。戦場でその力を発揮しようとしたのです。しかしそのときに声がかれを引き止めました。
「ガンダルフ! ガンダルフ!」
それは恐ろしさでいままで物陰に隠れていたピピンでした。ピピンは足を止めたガンダルフの許に駆け寄ると、デネソールの乱心とファラミアの危機を伝えました。それを聞いたガンダルフはファラミアを救うことこそ優先すべきだと判断し、ピピンを飛蔭の自分の前に乗せると、開かずの入り口に向けて疾駆しました。途中、ローハンの到着を聞いてミナス=ティリスからも出撃しようと兵をまとめているイムラヒル大公に会い、ガンダルフはミナス=ティリスの総指揮を大公に託して先を急ぎました。

開かずの入り口に着いてみると、門前には門番が死体となって倒れ、鍵が奪われているのがわかりました。ガンダルフとピピンは馬を下りると急ぎ門をくぐって坂を下っていきました。
そして執政の廟に入ると、そこでは戦闘が起こっているではありませんか。ファラミアを救おうと駆けつけたベレゴンドが、剣とたいまつを手にしたデネソールの侍僕たちと剣を交えているのです。もうすでにひとりの侍僕がベレゴンドの剣を受けて、血に染まり倒れています。
「止まれ(とどまれ)! 止まれ! この狂気の沙汰をやめよ!」
ガンダルフが叫んで入り口前の石段に飛び出していきました。たいまつを取りにいった侍僕たちといれかわりにベレゴンドが到着し、戻ってきた侍僕たちを死者の家の中に入れないように戦っていたもようです。
ベレゴンドの背後には、死者の家に通じるドアがしっかりと閉じられていましたが、そのとき突然その扉がぐいっと開けられ、都の執政が抜き身の剣を手に現れたのです。ガンダルフは飛ぶように階段を駆け上がり、デネソールに向けて片手をあげました。するとその振り上げた動作だけでデネソールの剣は舞い上がって、背後の薄暗闇のなかに落ちました。
「殿、これは何事です! ファラミア殿はいずこにおられるのか?」とガンダルフが聞きました。
「中で寝ておる。燃えておる、もう燃えておる。やつらはあれの身内(しんない)に火をつけおった。だがまもなくすべてが燃えるわ。西方世界は衰微した。すべては劫尽(ごうじん)の大火となって燃え上がり、一切が終わるのだ。灰だ! 灰と煙となって風に運び去られるわ!」
ガンダルフは大侯を捕らえている狂気を見て、かれがすでに悪しきことをなしたのではないかと恐れて、押し切って前に進み、ベレゴンドとピピンもあとに続きました。デネソールもまた引き返して中の台座の脇に立ちました。

その台座にはファラミアがなお熱に浮かされて横たわっていましたが、台座の下にはすでに薪が組まれ、台のまわりにも薪がうずたかく積み上げられて、すっかり油がしみていました。しかしまだ火はつけられていません。ガンダルフは状況を見ると、薪の山の上に飛び乗り、病気の人を軽々と抱き上げ、入り口のほうにかれを運んでいきました。ファラミアはうめき声をあげて、夢うつつで父親を呼びました。それを聞くとデネソールは催眠状態から覚めたように目から光が消え、さめざめと泣きながらいいました。
「予から息子を取っていかないでくれ! あの子は予を呼んでいる」
「呼んでおられる。じゃが殿はまだご子息のところにおいでになることはできぬ。なぜなら生きるか死ぬかの瀬戸際にあって、ご子息が求められねばならないのは治療の道だからじゃ。一方殿のお役目はご自分の都の戦いに出ていかれることじゃ」
「あの子は二度と目を覚ましはしない。戦いは空しいもの。なぜわれらはもっと生きようと思わなければいけないのか? なぜ枕を並べて死んではいけないのか?」
「さあ! わしらは必要とされている。殿にはまだおできになることがたくさんありますぞ」
すると突然デネソールは笑い出し、台座の上の枕をとりあげそのカバーをひきはがしました。そしてデネソールが手にしたのはなんとパランティアではありませんか。
「あんたは白の塔の目が見えないと思っていたか?」
両手にパランティアを抱えたデネソールはガンダルフをののしり、アナリオン朝の執政はイシルドゥアの家系からのみ出ているなり上がり者に頭を下げたりはせぬ(注1)、とも言いました。
「おのが手に委託されている職務を忠実に譲り渡す執政がその受くべき愛や名誉を減ぜられることがあろうとは思いませんな。それからせめて殿は死がまだ不確実の間はご子息からその選択を奪ってはなりませぬ」
この言葉を聞くとデネソールの目は再びめらめらと燃え上がり、短剣を引き抜きファラミアの横たわっている担架に歩み寄りました。しかしベレゴンドが跳び出してファラミアとの間に身をおきました。
「あんたはすでに予の息子の愛を半分盗みおった。今度は予の騎士たちの心をも盗みおった。だがすくなくともこのことにかけてはあんたに容喙はさせぬぞ、予自身の最後を定めることだけは----」

デネソールはそういうと忠実な侍僕たちを呼んで、その手からたいまつをひったくり、台座に駆け寄り、薪の中に燃え木をつっこみました。薪はたちまちごうごうと炎をあげて燃え盛りました。
それからデネソールは台座の上に跳び乗ると火と煙に包まれてその中に立ち、足元においてあった執政職の杖を取り上げて、膝でふたつに折りました。折れた杖を炎の中に投げ入れ、かれは一礼して、台の上に横たわると、両手でパランティアをしっかりと抱えこんで胸の上に置きました(注2)。
ガンダルフは痛ましさと恐ろしさに顔をそむけ、扉を閉めました。外にいる者たちの耳には中で燃え盛る火の貪欲なまでにごうごうとうなっている音が聞こえてきました。やがてデネソールは一声大きな叫びをあげました。そしてそれから後はもう何もいわず、また生ある人間の目には二度とふれることはありませんでした。(注3)

                             *

(注1)アナリオンはエレンディルの次男でイシルドゥアの弟。エレンディルの死後イシルドゥアは北方王国を継ぎ、アナリオンは戦死していたためアナリオンの息子メネルディルが南方王国(ゴンドール)を継ぐことになりました。そしてアラゴルンは北方王国の血筋なのだから南方王国を継ぐ権利はないとデネソールは主張したのです。しかしイシルドゥアは両王国の統一王の立場も継いだと考えられるので、南方王国の血筋が絶えた時点で血筋の残る北方王朝が南方王国をも継げるとするのがガンダルフらの考えです。
(注2)言い伝えによると、この後ずっとこのパランティアを覗き込む者があれば、その人がこれをほかの用途に転ずるだけの強力な意思の持ち主でない限り、見えるものはただ炎の中にしなびていく二本の年老いた手だけだということでした。
(注3)映画ではデネソールは火に包まれながらミナス=ティリスの先端から転落しますが、そんなことは不可能です。体を火に包まれながら廟から坂をあがり第六環状区をぐるっとまわりながら第七環状区まで駆けあがり、さらに先端に走ってダイブって・・・。ジャクソン監督はこの件について「不可能なことはわかっているけど、映画だからいいかなあと」といってます。いや監督、そんなこといったらなんでもありになっちゃう(笑)。
posted by ラリエン at 09:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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