2008年07月31日

【指輪物語豆知識(153)】『指輪物語』の変遷(7)『シルマリル』の出版

トールキン教授の死後、その出版計画を受け継いだのは教授の三男のクリストファー・トールキンでした。
クリストファーは父がなんとか出版したいと考えていた『シルマリル物語』をまとめることに尽力します。しかし教授の遺した原稿はそのまま本にできるようなまとまったものではなく、メモ、覚え書きていどの断片も多く、互いに矛盾する話も少なからずあって、これをまとめることは大変な作業でした。
それでも話としてまとまっている、また矛盾しない部分をとりまとめて、なんとか『シルマリル物語』を出版することができました。教授が亡くなってから4年後の1977年のことです。

こうした事情ですので、当初教授が考えていた「『指輪物語』と同じぐらいの分量」には届かない厚さになりました。それでも単行本としてはかなり厚い部類でした。

『シルマリル物語』は、日本では1982年に評論社より田中明子さんの翻訳で刊行されています。俗に単行本と呼ばれる四六判(しろくばん)で596ページにもなる分厚い本です(注1)。
なお、2003年に翻訳を見直した改定新版が刊行されています。続きを読む
posted by ラリエン at 10:34| Comment(2) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月28日

【指輪物語豆知識(152)】『指輪物語』の変遷(6)『指輪物語』の出版

さて『指輪物語』のほうですが、この物語を書き続けるうちにトールキン教授は、このまま出版しても、読者には内容が理解できないのではないかと危惧を抱きます。なぜならこの物語は、中つ国の歴史のさまざまな流れから生じた出来事を記すものですから、その歴史を知らないでは理解できないだろうと考えたのです。
そこでトールキンは出版社に、『指輪物語』と同時に『シルマリル物語』を刊行してほしいと頼みます。しかしその『シルマリル物語』の内容と陣容を聞いた出版社は尻込みします。教授の説明によるとそれは『指輪物語』と同じだけの分量になる予定で、37000年にわたる中つ国の歴史をかいつまんで述べたものだ、と言われたからです。できている原稿の一部を読んでなおさら尻込みします。
その内容は、いわば『聖書』といった趣きです。『旧約聖書』を読んだことのある方もおいででしょうが、冒険あり活劇ありで、なかなか面白い内容があります。しかし宗教を抜きにして、商業出版として『聖書』をとらえたら、とうてい売れる本とはいえないのではないでしょうか。『シルマリル物語』はまさにそんな本でした(注1)。
最初にもちかけたコリンズ出版社は教授の提案をのまず、トールキンは『ホビット』の刊行をしてもらったアレン&アンウィン社に話をもっていきます。教授は『シルマリル』の同時刊行は無理のようだと悟り、かわりに、これだけは知っておいてほしいということだけまとめるから、せめてそれを『指輪物語』の最後の巻の終わりにでも載せてほしいと頼みます。アレン&アンウィン社はこの提案はのんでくれました。その部分は『追補編』とよばれるもので、原書房版『ホビット』の翻訳者の山本氏がいう「付録」などというものではなく、文庫版1冊を費やす、立派なトールキンの著作物なのです。続きを読む
posted by ラリエン at 10:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月25日

【指輪物語豆知識(151)】『指輪物語』の変遷(5)『ホビット』の翻訳本

こうして『ホビットの冒険』の改定版(2版)が出版されたのは1951年のこと。『指輪物語』が出版される4年前のことでした。

なお、『指輪物語』が出版されたあともトールキンは細かな修整を『ホビットの冒険』にしており、そのたびに改定新版というものが出されています。たとえば第2版でのガンダルフの描写。<ビルボが見たひとは、ただの年よりの小人でした。>。ガンダルフは「小人」となっています。これは第3版では<杖をついたお年寄りでした>と訂正され、「小人」なる描写はなくなっています。

まとめてみましょう。
●第1版 1937年。アメリカ版は1938年
●第2版 1951年。アメリカ版も同年
●第3版-A 1966年、アメリカのバランタイン社のペーパーバック版のみの修整。
●第3版-B 1966年。同年上記A+αの修整をほどこしたものが英国にて出版。このBがアメリカでは同年にハードカバー版として出版。
●第4版 1978年。

日本では前述しましたとおり1965年に岩波書店より瀬田貞二さんの訳で第2版を底本として出版され、岩波版はその後1983年に改定されていますが、この改定は翻訳の見直しという感じで、底本は2版のままです。
実は1978年に雑誌「翻訳の世界」の「欠陥翻訳時評」という記事(別宮貞徳さん著)で、『ホビットの冒険』の誤訳がかなりてひどく叩かれたのです。事実、この1965年の『ホビット』は実は誤訳だらけだったのです。当時すでに病床にあった瀬田さんはこの記事をかなり気にされていたようですが、自ら改定をすることもできずに、亡くなられてしまいました。その後岩波書店が大幅な改定を1983年にしています。これは大変おおがかりなもので、手を入れていないページはないんではないかと思われるほどのものでした。ですので岩波版『ホビット』を求められるときは、「改版」と書いてあるものをお探しになるといいと思います。

そして『ホビット』はその後1997年には原書房より『ホビット ゆきてかえりし物語』(注1)のタイトルで山本史郎さんの訳でも出版されています。これは第3版を底本としていますが、この本がちょっと問題なのです。続きを読む
posted by ラリエン at 11:07| Comment(4) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月22日

【指輪物語豆知識(150)】『指輪物語』の変遷(4)『ホビット』の改定

『ホビットの冒険』でいちばん手を入れられた部分は、ゴクリと指輪に関する部分でした。第1版のゴクリは長年指輪を持っていたにしては、その悪しき影響をあまり受けていない描かれ方でした。
第一その指輪自体も、<昔々そうした指輪がまだふつうにあった>時代にゴクリが誕生日の贈り物としてもらった指輪、という設定でした(注1)。

第1版におけるゴクリとビルボとの謎かけ遊びのシーンを見てみましょう。
ゴクリとビルボは賭けをして謎かけ遊びをしますが、ゴクリが勝ったらビルボはゴクリに食べられるというのは2版以降といっしょですが、ビルボが勝った場合は贈り物をしよう、と第1版ではゴクリが言います。
そして謎かけの結果、ゴクリの勘違いによって(ちょっと反則でしたが)ビルボが勝ちます。
第1版では、ゴクリは負けたのだから贈り物をするといって、いちばん大事にしていた、昔誕生日にもらった指輪を贈ろうとします。しかしいくら捜しても見つかりません。それもそのはず、ゴクリの落とした指輪はビルボが拾って、いまは彼のポケットにあるのですから。ゴクリはすっかり恐縮してしまいます。指輪のことを説明して、それを贈るつもりだったのだけど見つからないといって、ゴクリは何度も何度もビルボに謝ります。謎かけ遊びというのは神聖なゲームで、そのルールを破ることはゴクリも考えもしないことだったからです。ビルボは自分が拾った指輪がその贈り物であることに気づきますが、拾ったことは隠して、「気にしないで、もしも見つかったら指輪はわたしのものということでいいから。それよりも出口を教えてくれないか?」ともちかけます(注2)。ゴクリはなおも謝り続けながら、ビルボを出口に案内します。続きを読む
posted by ラリエン at 10:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月19日

【指輪物語豆知識(149)】『指輪物語』の変遷(3)ホビットの馳夫

「続・ホビットの冒険」の構想を練りはじめた教授は、徐々に「指輪」に焦点をあてていきます。
第1回で紹介した構想メモの続きにはこうあります。
<指輪:誰が作ったのか。死人占い師(注1)か? 目的が正しければそれほど危険ではない。だが、苛酷な報いを受ける。指輪をなくすか、自分をなくすかの選択を迫られる。>
こうして指輪の支配力というものが物語の中心となっていきます。

そして話の筋は徐々にいまあるような形になっていきます。主人公ビンゴは3人の甥とともに出発し、黒の乗り手に追われながら、エルフのギルドールに会います。ギルドールはビンゴに言います。
<「指輪の王があなたを捜しているのだと思う」とギルドールは言う。ビンゴは尋ねる。「その王は善き存在なのか邪悪な存在なのか?」。彼はこう答える。「悪だ。どれほど悪いかは私にはいえない。ただ指輪の返還だけ求めたとしても(あまりないだろうが)、十分悪い。代償を求めてきたら、さらに悪いことに。あなた自身を要求したら(一番あり得ることだが)本当に酷いことになる」>
こうしてトールキンは冥王と黒の乗り手の構想を育てはじめます。続きを読む
posted by ラリエン at 12:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月16日

【指輪物語豆知識(148)】『指輪物語』の変遷(2)はじめにエルフ語ありき

トールキンは、そもそもイギリスに神話を作ろうと意図して一連の「指輪」関連の物語を書き続けたわけで、教授の構想としては、中つ国は地球の過去でした。
エルフたちの時代が第3紀で終わり、それから人間の世界となって現代にいたるのですが、闇の森はドイツの黒森を念頭に置いており、その西にブリテン島があってもおかしくはないわけです。
しかし教授自身もこの「神話」がここまで大きく育っていくとは考えてはいませんでした。

出版の順序に惑わされてはいけません。そもそも教授が最初に手をつけたのは『ホビットの冒険』でも 『指輪物語』でもなく、『シルマリル物語』でした。
なぜ『シルマリル物語』を書くようになったのか、それはすべてエルフ語のためでした。
トールキン教授の本職が言語学者であることはよく知られていますが、その言語学者になったのもエルフ語が要因なのです。
教授は「物心ついたころからエルフ語を作っていなかったことはなかった」と後に語っていますが、それこそ少年のころからエルフ語なるものを作り始めているのです。そして、エルフ語を理論的に作るために言語学を学び、ついには言語学教授としてオックスフォード大学に奉職するまでにいたります。なお大学での専門は古代英語でした。続きを読む
posted by ラリエン at 09:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月13日

【指輪物語豆知識(147)】『指輪物語』の変遷(1)

トールキンが『指輪物語』を「続・ホビットの冒険」というかたちで考えていたとき、物語はは最初からいまのかたちではありませんでした。この壮大な物語は、試行錯誤を繰り返し何度も書き直されて現在のかたちになったのです。
幸い、それらの初期の原稿も遺されており、「中つ国の歴史シリーズ」(全12巻未訳)で紹介されています。この項では、その流れを出だし部分から追ってみたいと思います。

第1稿)主人公は「続・ホビットの冒険」ということでビルボ。フロドもそれらしき人物もいません。ビルボは「トゥックの血が騒ぎ」、その70歳の誕生日(最終形は111歳の誕生日)に近所の人を呼んでパーティを開き、こう言います。
「最後にお知らせしたいことがあります。さようなら! 会食のあとででかけます。それから、私は結婚します」
そして指輪をはめてビルボは姿を隠し、冒険の旅に出ます。前に別の項でも書きましたが、ホビットは結婚をするときは突然2週間ほど姿を隠してしまう、という習慣があったため、ビルボのことを誰も探さないというわけです。

第2稿)主人公はかわらずビルボ。ビルボは71歳の誕生祝いのパーティを開き、ガンダルフも招待され、花火を披露してくれます。招待客の人数は最終形と同じ144人になります。旅立ちの挨拶はしますが、結婚の話は出てきません。

このあたりで全体の構想ができたのかもしれません。それは、ビルボを主人公として「続・ホビットの冒険」を書くという考えをこの第2稿までで教授が捨てたようだからです。
『ホビットの冒険』におけるこの一文がビルボを主人公とすることを不可能にしたといってもいいでしょう。
「ビルボは、生涯を終わるまで、この上もなく幸せにすごしました。その生涯というのが、またとほうもなく長かったのです」。続きを読む
posted by ラリエン at 13:27| Comment(3) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月10日

【指輪物語豆知識(146)】『ホビット』と『指輪』のアニメ

指輪物語』はジャクソン監督の映画により、広く知られるようになりましたが、『ホビットの冒険』については、まだ内容を知らない方が多いようです。
かといってあらすじを書いてしまうと、これから読もうという方の興をそいでしまいますし、映画を待つにはまだかなり時間があります。第一、そのかんじんの映画化が少々怪しいのです(注1)。

そこで、ここでは昔に作られた『ホビットの冒険』のアニメを紹介したいと思います。
このアニメは1977年に制作されたテレビ用アニメで、クリスマスのスペシャル番組としてNBCで制作されたものですが、日本では公開されていません。
このアニメがYou Tubeですべて見られるのです。
子供向けとはいえ、大変ていねいに作られていて、原作と少々違う部分はあるものの(ジャクソン監督のLotR程度違います(笑)。ビヨルン出てこないし><)、素晴らしいできになっています。歌も音楽も素敵ですよ^^。ビルボがかわいい(笑)。
長いので8分割でアップされています。ぜひご覧ください。英語ですが子供向けなので、むずかしい言葉は使っていませんのでだいじょうぶじゃないかな?続きを読む
posted by ラリエン at 13:07| Comment(2) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月07日

【指輪物語豆知識(145)】<それまで(8)>躍る小馬亭〜

9月29日】(承前) 躍る小馬亭

部屋に来た馳夫はいろいろ忠告をしてくれました、たとえばしだ家のビルに注意すべきことなど。さらに、自分は本名をアラゴルンといって、フロド・バギンズ氏を探していたこと、同行を申し入れるために、と。
フロドはめんくらいました。サムはあからさまにこの野伏を疑っています。そんなとき、バタバーがやってきました。そして何か忘れてると思ったが思い出したことがある、と言い、1通の手紙をフロドに渡したのです。それはガンダルフの手紙でした。危険がせまっているので遅くとも7月にはホビット庄を出るようにという手紙です。
もうすでに9月も終わろうとしています。読むとガンダルフはこの手紙を6月の末にバタバーに依託し、バタバーはそれを届けるのをすっかり忘れていたのです。最後にこうありました。
『もしもこの手紙をバタバーが忘れたら、火焙りにしてくれるつもり』
フロドは、火焙りも当然だ、と思いました。これが届いていれば、あんな怖い目にあわなかったでしょうに。
手紙にはほかに、馳夫と名乗る野伏に会えるかもしれない、彼は大変に信用のおける人間で、この一件も知っている。もし会えたらば助けてくれるだろう、とあり、本名はアラゴルンだと追伸にありました。続きを読む
posted by ラリエン at 10:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月04日

【指輪物語豆知識(144)】<それまで(7)>躍る小馬亭

9月29日】(承前)ブリー村・躍る小馬亭

ホビットたちがブリー村に近づいたころには、もうすっかり暗くなっていました。
「皆、気をつけておくれ。私の名前はバギンズじゃなくて、山の下だからね」
フロドはあらかじめ注意しておきました。山の下というのはホビットではよくある姓で、ガンダルフと打ち合わせて決めた偽名でした。
ブリー村の門は夜になったので、もう閉められています。フロドは門をドンドン叩きました。すると覗き窓があいて門番が顔を出します。その門番はいやに詮索好きで、根掘り葉掘り聞こうとします。フロドは相手をせずに通用門を開けさせると、トムが紹介してくれた宿屋「躍る小馬亭」をめざしました。後にわかったことですが、あの門番のハリーは、しだ家のビルに買収された、いわばスパイだったのです。

こうしてフロドたちはようやくのことで「躍る小馬亭」につきました。第3紀3018年9月29日の夕暮れでした。袋小路屋敷を出て6日めのことです。続きを読む
posted by ラリエン at 13:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 指輪物語豆知識 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。